僕らの出会いは、運命だったのかもしれない。
(…だるい)
聖秀高校の校庭。今し方高校入試の合格発表で、自分の名前を発見した大河は、桜の木にもたれかかり、必死に自分の名を探している様々な制服の女子達をみていた。
そして、キャーキャー騒ぐ彼女達に一つ、溜め息をついた。
(あんな奴らと学校生活を過ごすのかよ)
そう思うと、気が重くなる。
大河は、昔からモテていた。
そしてそれを、彼は自覚していた。
何もいわなくたって、周りにはいつでも女子が群がっていたし、告白だって何度もされた。
しかし、そういう女子には興味がなかった。
自分にだけ、無駄に優しくしたり、ことあるごとに話しかけてきたり、微笑んできたり、もしくは、避けてきたり…
そんな奴らは正直、自分にとって、ウザいだけだった。
「みて、あの子、かっこいい〜!」
声がした方を見ると、女子が数人、こちらを見ながらひそひそ話している。
バチリと目が合った瞬間、
『キャー!!
』
と叫んで駆けていった。
「はぁ…」
(うっとうしい)
大河はまた、溜め息をついた。
そのとき。
「ちょっと待ってよ由美ちゃん!えっと…筆箱は…!」
ちょうど慌てたように走りながらすれ違った少女が、何か落とした。
まるで今咲いている桜のような桃色の―
「…ハンカチ…?」
引き留めようと振り向くが、時既に遅し。
彼女の姿は見えなくなっていた。
とにかく、誰かに預けよう。大河はめんどくさがりながらも職員室に向かって歩き出した。
(…っと…?誰か教員は…?)
「あぁーっ!」
突然、後ろの方で声があがり、大河はびくりとし、振り返った。
長い黒髪を三つ編みにした少女が慌てたようにポケットやかばんをひっくり返している。
「ど、どうしたのよ、綾音!?」
「ない…ないの!佐藤先輩に貰ったハンカチが!」
『落としちゃったのかな…』と、肩を震わせている彼女に近づく。
「あの〜…」
「え…?」
少女が振り向く。
綺麗な茶色い瞳には、涙がたまっていた。
「これ…」
ハンカチを差し出すと、一瞬驚いた顔をしてから、すぐに安堵の表情になった。
そして、ハンカチをギュッと抱きしめた。
「ありがとう!」
そういった彼女の笑顔は、今までに自分に向けられた笑顔とは少し違っていた。
『自然な』、笑顔だった。
作り笑いなんかじゃなく。
はじめて『可愛い』と、思ったのだ。
あの日、僕らが出会ったのは偶然ではなく必然。
僕らは出会う運命だったのだ。
Destiny
(…ちょっと、邪魔なんだけど)
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