「なんだよ、これは…」
部室のドアを開けた大河は絶句した。
部室中に散らばった、いろんな色の包み紙。
その中心にはお菓子の箱。
そして、ほんのり香る、お酒の匂い。
しかし、その部屋には誰もいなかった。
行かないで
1月3日。
『聖秀野球部みんなで新年会をやろう!』と、誰かがいいだし、昼から部室に集まっていた。
2時間ぐらいたったころ、大河は顧問の山田によばれ、今年の練習について話していた。そして帰ってきてみれば…これだ。
「ん…」
「!?」
突然発せられた声に驚き、大河が辺りを見回すと、綾音が部屋の隅の椅子に座り、壁にもたれかかっていた。
その時
ピリリリリ…
「ぅわっ!」
突然響いた携帯の音に、大河は思わず声をあげる。
「ったく誰だよ…」
と、ブツブツいいながら携帯をとる。
「もしもし?」
『あ!清水キャプテンッスか?』
「渋谷…。お前これどういうことだよ?」
大河は呆れたようにいう。
『スミマセン。ちょっとアクシデントがあったっていうか…』
「アクシデント?」
『まぁ、そのうちわかりますよ。んじゃ、あとよろしくお願いします!』
「あ、おい!」
一方的に電話は切られ、大河の耳にはむなしく
ツー ツー
と いう音しか聞こえなくなった。
「クッソ…。アイツら…明日絶対シメてや…!?」
大河は驚いて言葉を切った。
下を見下ろすと、綾音が大河の腰に手を回し、抱きついていた。
「ま、マネージャー!?」
「えへへ〜清水くん♪」
綾音は目をトロンとさせ、頬もうっすら色付いていた。
「ちょ、ちょっと…離れ…」
「や〜だぁ〜!」
細く白い腕をしっかりと大河の腰に回し、ピッタリとはりつく。
(あの菓子…酒入りか!?)
しっかりしているいつもの彼女と違い、甘えてくる姿に、大河はどうしたらいいのかわからず、しどろもどろになる。
「ちょ、マジで離して、マネージャー…」
(頼むから!)
「…やだ」
拗ねたようにぷうっと頬を膨らませ、上目遣いで見てくる。
うるさい胸を押さえながら、いつものポーカーフェイスをつくる。
「な、なんで…?」
「…だって、また、置いていかれちゃうんだもん。」
「え…?」
綾音の目から涙がこぼれ落ちる。
「さ、佐藤先輩も、手が届かない人になっちゃったし…」
「・・・・。」
「し、清水くんだって、野球上手いし、かっこいいからモテるし…
わ、私なんて、すぐ置いていっちゃうんでしょう…?」
「マネージャー…」
普段では聞けない彼女の本音。大河は彼女をじっと見つめた。
「…も、もう、私を置いていかないで…清水くん…」
その瞬間、大河は綾音を抱きしめていた。
突然のことに、綾音は目を白黒させる。
「…ねぇよ」
「…え…?」
「置いてなんかいかねぇよ…!」
抱き締める腕に力をこめる。
「俺がちゃんとそばにいてやるから」
「し、清水く…」
「な?だからもう泣くな。」
「…ありがとう!」
綾音は目に涙を溜めたまま、ニッコリと笑った。
行かないで
(清水くん、)
(な、何?)
(大好き!)
(…マネージャー、頼むから離れてくんない、マジで。やばい…)
← →