ある日の昼下がり。いつも通り互いに罵り合い一通り喧嘩をした後、いつものムカつく調子で、ヤツは言った。
「…お前と結婚してやる」
一瞬聞き違えたのかと思い、ヤツの顔をまじまじと見た。その表情からは何も読み取れない。私の耳がおかしくなければ、コイツは今プロポーズしたというのに。照れるどころか無表情…むしろ人を見下したような態度。
勿論私たちは付き合ってなど、ない。
「なんでェ、そのカオ」
しまった、表情に思いっきり出ていたらしい。まぁ、今に始まったことじゃないし、いいか。それよりも。
「…お前…今…何て言った?」
「…ついに耳までイカレちまったか、アホチャイナ」
『結婚してやる』っていったんでさァ。
飄々とヤツ−沖田総悟は言ってのけた。
出会ってから二年経ったが、相変わらずつかめないやつだ。分かったことは、Sで、アホで、性格悪くて、まぁまぁ強くて、一緒にいて退屈はしないということくらい。
「お前の頭がイカレてんダロ!からかってるアルか!?バカにしてんのかコノヤロー!」
「ひっでーなァ、俺はいつだって真剣だぜィ?」
「…ウソにしか聞こえねーヨ」
ムカつくニヤニヤ顔を睨みつける。
「お前なんかとけっ、結婚するくらいなら…!」
「オーイ、どもってますぜィ」
「うるっさい!」
「顔赤ェ」
「黙れ」
「…ガキ」
「死ねヨ」
ムードもクソもない。…まぁ、こんなヤツにムードなんか求めるだけ無駄…甘いムードが欲しいわけじゃないけど!
沖田は小さな溜め息をついた。
「…チャイナ…お前、地球が好きか?」
「は?」
いきなり話が飛ぶのはよくある事だが、なんだかいつもと違う雰囲気で少し戸惑う。
「…当たり前ネ!ここには銀ちゃんも新八もいるし、定春もアネゴも…」
「なら、」
“俺と結婚しろ”
…話が戻った。しかも命令口調かよ。
でも、
「意味わかんねーヨ!全然カンケー…」
「あるんでィ」
沖田は苦々しげに呟いた。
「…どういうことアルか?」
「……一週間以内に、天人追放令が出るという情報が届いた」
「……!!」
「国中の天人が強制的にこの星から追い出され、抵抗したものは処罰される…俺達もその仕事を言いつけられてる」
「そんな…」
地球から追い出される…つまり、銀ちゃんや新八と、離れなければならない…?
「ただし、それが免れるケースがある…それが俺達真選組や上の連中の中でも一部の奴らの縁者なんでィ」
「近藤さんがなんとか今まで通りのままおめーらに暮らして欲しいと思ってこの案を考え出した」
「……よく分かったアル」
よく分かった。なぜコイツの口から『結婚』なんて言葉が出たのか。
だけど、分からない。
この男はどうして、なぜ?
普段はみせないような真剣な表情に、混乱する。
「…お前が旦那達の事をどれだけ好きかも、旦那達がお前をどれだけ想ってるかも、この二年間俺達は見てきた…」
「……」
目が熱い。視界がぼやけてきた。どうしよう。こんなヤツの前で泣きたくないのに。
「ある期間過ぎりゃあ、あんなの廃止されるに決まってる。天人なしでは技術も国も進歩しねェ」
こぼれそうになった涙をグッとこらえると、ふっと沖田が見せた事のないような笑みを見せた。
「それまでは…夜は調査で人が来るかもしれねェが、…それ以外は今まで通り万事屋に行けばいい。旦那達と一緒にいれる」
…沖田は…真選組は、私がここに残れるように、最善の策を考えてくれている。昔から犬猿の中だったが、確実に絆は紡がれていたようだ。
でも、結婚は、乙女の夢、女にとってはひとつのゴールともいえるだろう。
それをこんな形でしてしまっていいのだろうか。
昔のように沖田を嫌いではないことにはとうに気づいていた。嫌なヤツな時はあるが、悪いヤツではない。悪友のようなものだ。ライバルであり、最大の理解者でもある。ただ、彼に恋愛感情を持っているとはいいきれないし、持っていないともいいきれない。非常に微妙な関係なのだ。
二年前の自分達からは考えられないような…いや、やっぱり関係はあんまり変わってないな。印象がほんのちょっと変わっただけ。
「安心しろィ。おめーみたいなガキに手は出さねーからよ。」
前言撤回。やっぱり嫌なヤツだ。
いつまでも私の事をガキ扱いする。言い返したらなんだか墓穴を掘る気がして、睨むだけにしといた。
「…まぁ別に相手は俺じゃあなくてもいいんだし、追放されたとしても数年で戻れるかもしれねェ…無理にとは言わねェよ」
「オイ、」
私は思わず、踵を返して去ろうとした沖田を呼び止めた。
「…質問があるアル」
「なんでィ」
「…お前は、どう思ってるネ…」
自分より大きな背中に呼びかける。
なぜか声が震えて、自分でも緊張しているのが分かった。
「私、お前が分かんないヨ!お前はなんとも思わないアルか!?上司に言われたから結婚するなんて…」
頭の中がごちゃごちゃしてきた。私はコイツに何を求めているのだろう?自分は何をしたいのか…それすら分からない。
こちらを振り向かない沖田が私をますます不安にさせた。
…不安…?そう、私は不安なんだ。微妙な関係のコイツと、コイツの気持ちも自分の気持ちも分からないまま、中途半端に結婚するのが、不安でしかたないんだ。
「………」
「………」
「…俺は…正直、お前をどう思ってるのかわからねェ…ただ、近藤さんに言われたのがお前以外の別の天人なら、間違い無く結婚は断ってた…と思う」
「……!」
背中越しなので沖田の表情は見えないが、彼は一つ一つの言葉を慎重に選んでいるようだった。
「それは…ライバルだからってのもあるかもしんねェが、多分お前がいなくなったら、楽しくなくなるから…旦那達だけじゃなく、俺もな」
「………沖田」
「結婚の事も、二年間こうやってやりとりしてきて、お前といたら退屈しないってわかったし。一緒に暮らすのも面白そうだし…」
他の人が聞いたら、なんて軽すぎるプロポーズだと呆れるかもしれない。だが、沖田の一つ一つの言葉は、不思議と少しずつ私の不安を取り除いていく。
「最初は嘘でいいんでィ」
最初より優しいトーンで沖田は続けた。
「追放令の間は形だけで…でも、そうやって暮らすうちに、もしお互いに、本当の家族になりたいと思う日がきたら、…その時に本当の夫婦になればいい。そう思ったんでさァ」
「……」
沖田も私と同じだった。
自分の抱いている気持ちが恋なのかは分からない。
だけど、
沖田は私といたら楽しいと言ってくれた。
私との関係をなるべく壊さないために、頑張ってくれているのがわかる。
それだけじゃなく、私との間にある可能性を見つけようとしてくれている。
先ほどまでの不安はもうない。
私は何を怖がっていたのだろう…?
私の生活に表れる大きな変化、でもコイツとなら、それも面白い。
こんな結婚は間違っているのだろうか…間違っているに違いない。
でも、私達のやってることなんて、昔から間違いばかりだった。
それでもこうして、しっかりと歩けている。これまでも、これからも。
「…まァ、そういうこった。幸い、まだ時間はある。ゆっくり考えて…」
「す、酢コンブ!」
「…はぁ?ついに頭ァやられたのかィ?何言って………!!」
呆れながらこちらを向いた沖田は驚いて口をつぐんだ。顔が焼けるように熱い。多分私の顔は真っ赤なのだろう。
何も言われないうちに私は叫んだ。
「酢コンブ毎日買ってくれるなら…けっ、けけ結婚してやってもいいアル!!」
ぽかーんとなって沖田に、なんだかますます恥ずかしくなって、また私は叫んだ。
「その代わり…結婚するなら…全力で幸せにしないと許さないからナ!」
湯気がでているんじゃないかと思うぐらい熱い顔のまま、言い切ってやると、沖田はぷっと吹き出して、笑った。
「当たり前でィ。幸せすぎて死ぬんじゃねーぞ」
「それはこっちのセリフアル!」
そう言って、二人して笑った。
私達の不格好な恋物語は、まだ始まったばかり…
END
リハビリで書いたつもりがさらにひどいことに…意味不明だしキャラ違うし設定おかしい…
「お前と結婚してやる」って沖田に言わせたかっただけでした。
まぁつまり、両想いなんですよ!!
ただ、自分の気持ちには気づいてないのです、二人とも。
とにかく一緒にいると安心するし、気持ちが楽になる…ぐらいしか思ってない。
続き書けたら進展させるつもり。また機会があったら書きたいなぁ
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