「ねぇねぇ、本田君は何にしたの?」
「あ?何が。」
リトルの練習が終わり、帰ろうとしていた吾郎は、小森の言葉に眉をひそめる。
「何って…プレゼントだよ!」
「クリスマスならまだ先だぜ?」
『全く、子供だな〜、小森は!』とからかう吾郎を見て、沢村はため息をついた。
「おいおい、本田。まさか忘れてるわけじゃねーよな…?」
「…?何をだよ?」
キョトンとする吾郎に、驚いて小森が言った。
「本田君、忘れたの?明日、清水さんの誕生日だよ?」
「…え゛…?」
HAPPY BIRTHDAY
(うーん…どうすっかなぁ)
商店街を歩きながら、吾郎は頭を抱え込んでいた。
(女のプレゼントなんて、買ったこともねぇし、金もねぇし…)
あちこちと歩き回ったが、決まらず、結局家に帰ってきてしまった。
(かあさんに言ったら、絶っっ対にからかわれる…)
そう思い、吾郎は桃子にも相談しなかった。
その日の夜。
「見て見て〜!吾郎!」
桃子に呼ばれ、吾郎はリビングに来る。彼女は手に、何かを持っていた。
「何?」
そういって、彼女の手元を覗きこむ。
「これ…!どっから出してきたの?母さん…」
「うふふ。覚えてたんだ〜」
幼稚園の誕生日会の時にもらったアルバムだった。表紙に『ごろうくんへ』と書かれてある。
それを見た時に、吾郎はあることを思いついた。
「母さん、ちょっと出かけてくる!」
「え?ちょっと吾郎!」
吾郎はボールをつかんで、家を飛び出した。
次の日。
「清水さん、誕生日おめでとう!」
「ありがと、小森!」
チームのみんなからプレゼントをもらい、薫は笑顔になる。
練習が終わり、四年生の4人が残った。
薫も帰ろうとしたとき、吾郎が呼び止めた。
「なぁ、清水、キャッチボールしようぜ。」
沢村も混じって、3人でキャッチボールをする。
小森は手首を痛めているので、近くでそれを見ていた。
パン!と心地よい音が響く。
「しっかし、清水もうまくなったよなぁ。」
沢村が吾郎にボールを投げる。
「たしかに。キャッチボールもまともにできなかったやつが、俺のキャッチャーだもんなぁ。」
そのボールを、吾郎が薫に投げる。
「当たり前だろ〜?あたし死ぬほど頑張ったんだから!」
薫が捕球し、沢村に投げる。
いつもと変わらない、みんなの明るい声。
ただ、ボールを捕って投げる、という単純な動きだったが、自然と笑顔になった。
「よし、じゃあ腹も減ったし、ラストにすっか!」
「「おう!」」
薫から沢村に。
沢村から吾郎に。
そして…
「ラスト!」
そういって、吾郎はボールを青空へ、高く投げた。
パシッ。
と、そのボールを捕り、手に持った薫は驚いた。
そこには、吾郎のものらしい『誕生日おめでとう』の文字と、チームメイトのみんなからの言葉があった。
「…わりぃ。なんか、何買ったらいいかわかんなくてさ。」
吾郎は、少し照れくさそうに顔を逸らしていた。
しかし今度は、吾郎が驚いた。
薫が、泣いていたのだ。
「お、おい、清水…?」
「…あっ。ごめん…なんか…嬉しくて…」
プレゼントが気に入らなかったのではないとわかり、吾郎はホッとした。
「おいおい、清水さーん、そんな俺からのプレゼントが欲しかったのかよ?」
「だって…あの本田がプレゼントなんて…」
「悪かったな、似合わなくて。」
薫も笑顔になり、いつもの痴話喧嘩が始まったとき、存在を忘れられかけていた沢村と小森がくちをはさんだ。
「あのォ〜。本田クン、清水サン。俺達いるの忘れてませんかぁ?」
「あ、わりぃ、わりぃ。」
「清水さん、」
小森が薫に話しかける。
「あのね、本田君、昨日の夜にチームの全員の家に行って、直接みんなに書くように頼んだんだよ。」
「え、」
「だぁぁぁあ!てめー、小森!何しゃべってんだよ!」
「いやー、夜の9時に来たときは、何かと思ったぜ。」
「沢村ぁぁあ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ吾郎を見て、薫も頬を赤らめながらもにっこりと笑った。
「ありがとう、本田!」
みんなからの最高の贈り物。
あなたからの最高の言葉。
今日は私にとって、最高の日。
みんな、ありがとう。
END
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