「おはよう、三橋くん」
篠岡の声に、前方を歩いていた三橋は飛び上がった。
「し、しの、篠岡さ…お、おは、よ…!」
オドオドとしながらも、三橋は小さく挨拶を返す。彼の挙動不審はいつものことなので、特に気にする様子もなく、篠岡は三橋と並んで歩いた。
「いい天気だねー!野球日和!」
「う、うん…!…し、篠岡さん、今日…早い、ね…」
「あ、うん!今日はねー、雑草抜きしようと思って!」
ほら、昨日雨降ったでしょ?と、困ったように篠岡は笑った。雨の降った次の日には、雑草の芽が沢山でてしまうのだ。
いつもは昼休みにするのだが、昨日のように雨が降るとあっという間に生えてきて、とてもじゃないが追いつけない。
「あ、…あ、ありが、とう!」
昼休み、放課後とせっせと働く篠岡の姿を思い出し、三橋は慌てていった。
すると篠岡はキョトンとしたあと、再び笑った。
「いえいえ!マネジですから!」
(篠岡さん、優しい…!いい人だ!)
三橋はそのとき、水谷の言葉を思い出した。
『篠岡の笑顔みるとさー、なんかやる気になんだよね』
今、三橋はその気持ちが良くわかった気がした。
部員一人一人に気を使い、優しく接してくれる、頼れるマネージャー。
こんな自分にまでも。
(こんな奴と、一緒にいっても、楽しくない…よね)
なんだか申し訳なくなって三橋は俯いた。
自分に挨拶をし、並んだことを後悔しているんじゃないだろうか。と不安になり、三橋は恐る恐る篠岡を見た。
しかし篠岡は、ニコニコと笑っていた。
「…あれ?どうしたの、三橋くん。
あ…もしかして…一緒に行くのいやだった?」
『ごめんね、気づかなくて…』と謝らて、三橋はまた慌てて首をぶんぶんと振った。
「そうじゃ、なくて…っ、」
(俺、つまんない奴だから…)
三橋はしばらく口をパクパクとさせていた。
そんな彼の様子から、篠岡は言いたい事を何となく感じとった。
「そっかぁ。よかった!
なんか、嬉しいな」
「う…ウレ、シイ?」
「うん!」
今度は三橋がキョトンとする番だった。
篠岡は相変わらずニコニコと笑っている。
「なかなか三橋くんとゆっくり話せる機会ってないもんね。」
部活中は、阿部に言われた事をするので手一杯の三橋。
篠岡もマネージャーの仕事で忙しい。
しかもクラスも違う。
二人で話すことは、めったにない。
「…たの、しい?」
「私?楽しいよー!」
三橋的にはかなり頑張って聞いたことだったが、篠岡はあっさりと返した。
ふひっとしまりのない笑顔を見せた三橋に、今度は篠岡が聞いた。
「三橋くんは?」
「え、」
「今、楽しい?」
すると三橋は今度は縦にぶんぶんと頭を振った。
「俺も、楽しい、よ!」
その言葉に、篠岡は
『そっか!』
と笑った。
微妙に会話はズレることはあったが、それすら笑えるほど楽しかった。そのせいか、いつもより登校時間が短く感じられた。
「みんなおはよーっ」
「お、おは…!」
対照的な挨拶をしながらやってきた二人に、来ていた二人は目を丸くした。
「おはよ、三橋、篠岡!今日早いね?」
「おはよう。今日はねー、草むしりしようと思って!」
そう言って腕をグッと曲げてやる気に燃える篠岡を見て、栄口は笑った。
「ははは、やる気だね」
「うん。途中で三橋くんに会ったから一緒にきたの」
泉は、隣から
『なぁんだ〜、よかったぁ』
という声が聞こえたが、聞こえないフリをした。
「なんだなんだ!三橋としのーかは仲良しか!」
ニヒヒと笑いながら、田島が猛スピードでやってきた。
「仲良しだよー、ね、三橋くん」
「う、うん!」
羨望の眼差しを数ヵ所から感じながらも、三橋は答えた。
その日の朝は、いつもにも増してほのぼのとした空気に包まれていた。
そして数ヶ月経つのに三橋と普通に会話ができない阿部は、たった数十分で三橋を攻略した篠岡からアドバイスを貰おうと、心に強く決めたのだった。
END
とにかくほのぼのを目指しました。
ミハチヨは思いっ切り恋愛なのより、こういう姉弟っぽいような関係が好きです。
もしくは神と崇拝者、みたいな(笑)
レンレンは意外と書きやすかった!
千代ちゃんのが難しい…
ギャグだかなんだかわかんないオチだけど、満足!
サカチヨ、アベチヨ、ミズチヨ風味もいれてみました。
片想い止まりならなんかだれでもいけちゃう。不思議だ!
← →