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夏の終わりに


夏休みが終わる一週間前。それは突然、練習が終わった直後に告げられた。

「えー、ところで皆さん。宿題は終わってますか?」

山田の言葉に、それまでざわざわとしていた野球部の面々は黙り込んだ。その中にはもちろん、綾音も含まれていた。

「……」

(全然…手、つけてない…かも…)

「……その様子だと、ほとんどの人が終わってないようですね」

山田は困ったようにため息をついた。
すると突然立ち上がる渋谷。

「先生ェ!それ野球部関係ないッスよ!?」

「…いえ。野球部のせいで勉強を疎かにされては困ります。
なので、」

山田はニッコリと笑った。しかし続いた彼の言葉に、野球部は全員驚愕した。












家に帰った綾音は慌てて宿題に取り掛かった。真っ白なワークやプリントを見て、綾音は青ざめる。

(…山田先生…鬼だわ…)
(まさか…まさか…)
(『宿題が終わるまで部活動禁止令』がでるなんて…!)

とにかくやるしかない。綾音は得意な現代国語のワークに手を伸ばした。

国語は割と早くに終わり、夜には英語に取り掛かっていたが、やはり国語ほどは進まない。
途中でねむくなり、綾音はそのまま眠ってしまった。

起きると、朝だった。
綾音はシャワーを浴びて、朝食をとると、再び宿題をし始めた。
(早く部活に行きたい)
その一心で英文と格闘しながら、シャーペンを動かす。

時計をちらりと見ては、今頃みんなはどうしてるだろうか、とか、何人くらい来てないのだろう、と部活の事を考えた。



やっと英語のプリントを終えた。少し休憩をとろう、とシャーペンを置いた時。
携帯がお気に入りのラブソングを奏でた。
綾音はビクッとして、恐る恐る通話ボタンを押した。

「…も、もしもし」

『……マネージャー?』

「うん」

嬉しさと驚きと緊張からか、お互いに上擦る声。

『…宿題、できた?』

「それが…まだなの」

しゅんとする綾音。意地悪を言ってからかってやろうかと思った大河だったが、綾音が野球部に行きたいという気持ちが痛いほどわかり、やめておいた。

「清水くんは、」

『俺?俺はもう終わったし、部活も行ってきた』

「…デスヨネ…ごめんなさい」

『いや?…マネージャー、気になってんじゃないかなって』

そんなことでわざわざ電話してくれたのだろうか。
綾音は嬉しくなった。

「清水く…」

『俺のことが』




「…………」

『………』

「………あはは、やだわぁ。しっかり者の清水キャプテンの事なんか、気にする訳ないじゃない」

電話の向こうから聞こえる彼女の声は全く笑っていない。恐ろしくドスの効いた声だった。

『ご、ごめんごめん、冗談だよマネージャー』

慌てて大河は謝る。
綾音は動揺している事に気付かれないように、話題を切り替えた。

「部活…どうだった?」

『んー…あんまり来てなかった。みんな終わってないっぽい』

「そう…」

『…アンタは?終わりそう?』

「うーん…まだ強敵が…」

『数学?』

大河は綾音が数学が特に苦手だということを知っていた。

「うん…あんまり進まないの」

『…んじゃ俺、…教えてあげよっか?』

「え、」

思いもよらない大河の提案に、綾音は驚いた。

『今日はすることもないし…マネージャーがいいなら行くけど。』

「え、あ…で、でも…そんなの悪いよ…迷惑じゃ…?」

『……俺としては、マネージャーが部活に来れないほうが困るんだけど』

大河の言葉にう゛っ…とつまる綾音。

「あ、じゃあ私が清水くん家に…」

『いい。移動時間がもったいない』

「……〜〜っ、……オネガイシマス」

『了解』

そういって切られた電話を見つめ、綾音は微笑んだ。
そして普段面倒がりな大河がわざわざ来てくれることを嬉しく思い、服を着替えるのだった。



END


微妙な終わり方すみません。
綾音ちゃんのためなら、大河だって自分から動くハズ!