「一度やってみたかったんだよ、こーいう忙しいポジション!」
あいつがそういった時、俺は『バカか』って言いそうになった。
女が…ましてやライトフライも取れない奴が、俺の球を取れる訳がないと思った。
「やってあげたら…?」
「一球受けてみりゃあ諦めるだろ」
チームメイトの言葉に説得され、渋々俺はマウンドに向かう。
キャッチャーを誰もやろうと言い出さない事に、俺はいらついていた。
せっかく横浜リトルと試合ができるのに、俺の球を取ってくれる奴がいなきゃあ、勝負に集中できねぇ。
(清水に付き合っているほど、暇じゃねェんだよ。)
さっさと終わらせて、真面目にキャッチャーを決めよう。
そう思いながら、投げた。
たいして深くも考えず、キャッチャーをやったことのないあいつに手加減をすることもなく、それどころか寧ろ、
『こんなのがお前に取れるわけねーだろ!』
ぐらいの気持ちで、投げた。
それが、間違いだった。
俺が投げたボールは、彼女のミットにおさまることなく、マスクに直撃。
彼女は吹き飛ばされ、地面に尻餅をついた。
その瞬間、おとさんのことを思い出して慌ててうずくまっている彼女に駆け寄った。
「だから無理っていったろ!?」
そういいながら、無事そうであることに安心し、
『そういやこいつは女だった』
と、泣くのではないかと思った。
しかし。
彼女は──清水薫は、怒ることもなく、泣くこともなく、決意に充ちた表情で、みんなを見上げていた。
「無理でもやる。──だってあたし、本田が横浜リトルを押さえるとこ見たいんだもん」
「何もしないで負けるなんて、…あたしはやだもん!」
(あぁ、そうだ。こいつはこういうやつだった。)
確かに上手いとは言えないかもしれない。しかし、いつも、いつでも、やる気と根性、そして野球を愛する気持ちはチームメイト達の中でもずば抜けていたじゃないか。
清水の言葉に、みんなの心が動かされているのが感じられた。
そしてそれは、俺も当てはまっのだった。
「よーし、きまったぁ!
キャッチャーは清水!
日曜の試合までに必ず俺の球を取れるように練習だ!」
お前と一緒なら何も怖くない。そう思ったんだ。
END
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