「やったぁ!1ばーん!」
とある一室から、高い声が聞こえる。かと思うと、次には低い男達の声が。
「あがり!」
「よっしゃ!」
疑問に思い、ドアノブに手をかけた。
「よぉ。お前らなにやってんの?」
「ロイ!おせぇよ」
「待ってたんだぜ」
「は?」
意味がイマイチ理解できない。よく彼らの手元を見ると、トランプが握られていた。
「トランプ?」
「人数足りなくてよ、お前待ってたんだよ」
「やろうぜ!」
「…まぁ、いいぜ。んじゃあさ、」
そういいながら、ロイの目が怪しく輝く。
まるでいたずらをする子供のように。
「罰ゲーム!有りにしようぜ」
「いいわね!やりましょ!」
1番にのってきたのは、ホーネッツの小悪魔こと、陣内アリスだった。オーナー代行のお嬢様に言われては仕方がない。
渋々チームのみんなは了解した。先程から負けっぱなしの吾郎は身震いをした。
「で?罰ゲームって…何すんだよ?」
「そーだな…」
「『最下位のやつが一位のやつの言うことを一日なんでも聞く』…ってやつでよくね?」
「おー、いいんじゃね?」
(おーし、やるからには一位狙ってやるぜ!)
ロイは意気込んでゲームに望んだ。しかし…
「えぇと…総合優勝は、アリスお嬢さんで…」
「ぃやったぁっ!」
跳び上がって喜ぶアリスをよそに、チームメイト達は顔を青くして俯いていた。
アリスは普段、優しいが、実はかなりのわがままだ。何を言われるかわからない。
「んで、最下位は…ロイ」
「っしゃゃぁあ!」
ロイが口を開くより先に、吾郎が雄叫びをあげた。
(マジかよ…)
まさか最下位になるとは思わなかった。
自分でいいながら、なんて格好悪い。
「お嬢さん、ロイへの罰ゲームはどうします?」
「うーん、そうね…」
ロイはごくりと唾を飲み込んだ。
日曜日。
アリスの罰ゲームのため、ロイは練習場の近くの公園に私服で来ていた。
「ロイーっ!」
「あ、…アリス、お嬢さん」
「お待たせ!」
アリスはピンク色のワンピースを着て、いつもと少し違った雰囲気だった。
「全然待ってないッスよ」
「そう…?じゃ、今日は約束通り、荷物持ちに付き合って貰うわよ♪」
「へいへい」
楽しそうに跳ね回るアリスを見て、ロイはあることに気がついた。
「そういえば…お嬢さん、ボディーガードの奴は?」
「ゴードン?今日はいいっていったのよ。あなたがいるしね」
その言葉に、ロイはホッとため息をついた。
その時、アリスが何か気付いたように声をあげた。
「あ、そうだ」
「…?お嬢さん?」
「それよ!」
ビシッとロイを指差し、アリスは眉間にシワを寄せた。
「『お嬢さん』とか、敬語、今日はナシにして!」
「え…」
「だって私たち、スッゴク年近いじゃない!敬語って…なんか一線引かれてる感じするし、ヤなのよね」
腕組みをし、アリスはむぅっとしながら言った。
「あなただって苦手でしょ、敬語。」
「まぁ…」
「だから、今日はオーナー代行と選手じゃないわ。友達同士ってこと」
「……わかったよ」
するとアリスはニッコリ笑った。
(お嬢さ…アリスは、男だらけのあの場所で、ボディーガードにも見張られて、少し息苦しくなっていたのかもしれない)
早く早く、と手を引くアリスを見て、ロイはそう思った。
「ねぇロイ、あれみて!」
「あのお店いきましょ!」
「あれはなにかしら?」
次々と買い物をし、あっという間にロイの片腕は塞がった。
その間にロイは、みんなが言う『アリスのわがまま』が、単なる甘えだと気がついた。
普段しっかりしている分、余計にわがままに見えてしまったのだ。
「あっちも…きゃっ」
「…っおい!アリス!」
アリスは階段で足を滑らせた。思わずパシッと手を掴む。
「ばか!気をつけろよ!」
気がつくと大声で言ってしまった。ビックリしたようなアリスの顔でハッとして我に返る。
(俺はお嬢様相手になんてこと…)
しかし、アリスはキョトンとしてから、すぐに嬉しそうに笑っていた。
「ありがとう」
「えっ!?あ、いや、…ごめん…」
「謝らないでよ。嬉しいんだから」
「嬉しい…?」
今度はロイがキョトンとする番だった。
ゆっくり立ち上がりながら、アリスはロイを見た。
「えぇ。だって、今の私の周りに、本気で叱ってくれる人なんて、ほとんどいないわ」
「………」
「甘やかされ過ぎてるのよ、私。」
「でも…それは…みんなお前のことが…!」
「分かってるわ。みんなが私を大切にしてくれてるんだって
だから、私甘え過ぎて困らせちゃうのよ」
困ったように、照れたように笑うアリスを、ロイは見つめた。
「……」
「……」
「……いいじゃんかよ、甘えたって」
「え?」
「その分、お前が間違ってるときとかは俺が怒ってやる!な?」
再びポカンとしたアリスだったが、クスクスと笑った。
「な、何がおかしいんだよ?」
「なんでもなーい」
楽しそうに笑うアリスにつられたように、ロイも笑みをこぼした。
夕方になると、二人の両手は紙袋でいっぱいになった。
アリスを送りながら、ロイは今日一日の事を考えていた。
「なんか、デートみたいだったわね」
「デー…ッ!?」
動揺するロイの隣で、アリスは幸せそうに笑った。
「なんだか…普通の女の子みたいで楽しかったな」
「………」
「これでおしまいって思うとちょっと寂しいかも」
入り口で、二人は立ち止まる。
「じゃあ、今日はありがとね。また明日から、練習がんばって」
「あぁ。………アリス、」
「?」
「また…その、羽伸ばしたいときはいってくれよ。
その…俺でよければ、さ、付き合うから」
アリスの大きな瞳がさらに大きく見開いた。
そして、照れて髪を触るロイを見て嬉しそうに笑った。
「うん」
END
ロイ×アリ直前のロイ+アリ。
こーいうのがきっかけで仲良くなったりとか…しませんか。すみません。
二人のしゃべり方が安定しません…。
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