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Love fever


阿→(←)千←水+花





「駄目だよ、阿部くん!」

「大丈夫なんだって!心配すんな」

部室で押し問答を繰り返しているのは、西浦高校野球部、副キャプテンでキャッチャーの阿部隆也とマネージャーの篠岡千代である。
そしてそれをハラハラと見つめるのは、キャプテン花井梓とレフト水谷文貴。
1年7組のメンバーだ。

だんだんイライラが募り、表情が険しくなる阿部と、それでも一歩も引かない篠岡。そして心配そうにそれを見つめる水谷。

(そもそもなんでこうなったんだ?)

花井は昼休みの事を思い出した。




「花井くん、」

「お、どうした、篠岡?」

「うん…あの、これ。次の試合相手のデータ。」

「おー、サンキューな。」

そう言うと、篠岡はちらりと向こうにいる阿部を見て、花井に耳打ちした。

「ね、阿部くん…今日、変じゃない?」

「え?」

花井もつられて阿部を見るが、特に変わった様子はない。

「別に…普通じゃねぇの?」

「…私…なんか朝から違和感があって…
阿部くん、熱あるんじゃないかなぁ?」

『あんまり食欲ないみたいだし』と篠岡。
阿部の弁当箱を見ると、半分も食べていない。

それに気づいた水谷が、
『阿部、腹減ってねーのー?唐揚げもらうよー』
などと能天気なことを言って唐揚げをとったにも関わらず、怒鳴りもしない。
いつもなら、怒鳴って、水谷の弁当をすべて奪うぐらいの彼が、だ。
…まぁ、睨んではいたが。

「確かに妙だな…!?」

「でしょー?」

花井が水谷から阿部に視線を戻すと、阿部がこちらを睨んでいた。

(なんか…すっげー顔だな、あいつ)
(そんなに唐揚げ取られたの嫌なら、水谷に言やあいいのによ)

花井は
『ハハハ…』
と阿部に苦笑いを向けてから、篠岡に向き直った。

「…ケッコー…元気そうじゃね?」

「…そうかなぁ…?…体温計渡しても、本当に熱あったら、きっと計らないよね…」

「あいつ練習命だからなぁ」

『う〜ん』と唸る二人。
その間にも、花井には冷たい視線が突き刺さる。花井は冷や汗が流れるのを感じた。
(なんで俺?)

「よし!こうなったら『計らぬなら、計らせてみせよう隆也くん作戦』だね!」

「はい…?」

「花井くんと水谷くんも…」

ちらりと水谷を見る篠岡。笑顔で返す水谷。水谷を睨む阿部。
(…Why?)
そして篠岡は続けた。

「協力、お願いね」








そして、放課後。

部室に入った瞬間、阿部は両側から腕を押さえ付けられた。

「うわ、ちょ、何!?」

「じっとしろよ、少しの間だけだから」

「あ゛ぁ!?んだよテメーら、なんのつもり…」

「阿部くん、熱計るねー」

そう言って、篠岡はかばんから耳温計をだし、顔を近づけそっと阿部の耳に当てる。

最初は暴れていた阿部だったが、観念したらしく、『チッ』と舌打ちをしておとなしくなった。

体温をはかる篠岡を、最初は睨んでいた阿部だったが、あまりの近さに照れたのか、最終的には視線をずらした。
それを面白そうに、笑いをこらえる花井と、羨ましそうな目線を阿部に向ける水谷。

今野球部の誰かが入ってきたら間違いなくずっこけるような図だった。





「やっぱり熱あるね…阿部くん、今日は帰ったほうが…」

「やだよ、ぜってーやだ。試合まで一週間きってんだぞ!」

「だからこそだよ!今無理して試合出れなかったらどうするの!」

「今無理しなくていつ無理すんだよ!」

ぎゃあぎゃあと二人は言い合いをはじめた。
阿部はいつもの事だが、篠岡がここまで声を荒げるのも珍しい。

そろそろ止めるか、と花井と水谷が間に入ろうとした時だった。


「うるせーな!俺にかまうな!ほっとけ!マネジの仕事だけしてりゃいいんだよ!…俺の身体がどうなろうが、お前には関係ねぇ!俺は勝ちてぇんだよ!」

「………っ、」

しん、となる部室。
『ハッ』として阿部が見ると、篠岡の目に、滲む涙。
途端に怒りだす水谷。

「阿部!言い過ぎ!しのーかは阿部のこと心配して言ってるのに!」

「…うっせぇな」

「阿部!」

「おい、お前ら、ちょっと落ちつけって…」

花井が仲裁に入ろうとする。が…

「「花井は黙ってろ(て)!」」

(なんで俺ばっか…)

その時、聞こえた小さな声。

「………ない」

男子三人は言い争いをやめ、篠岡を見た。


「…ほっとけない…ほっとけないよ!」

まだその目には涙が浮かんでいた。

「だって、私…私は…」

男子たちの間に緊張が走った。

目を見開く阿部。
顔を青くする水谷。
ごくりと喉を鳴らす花井。



そして篠岡が口を開いた。





「…試合に勝ちたいんだもん!」

「「「………」」」

一気に様々な種類のため息が漏れる。
彼らに篠岡は気づかずにさらに熱く続ける。


「だから…、今の西浦には阿部くんが必要だから…」

「……」

「…しのーか…」

「………」

しばらくいろいろ考えたようだが、結局観念した阿部は、またもや小さく舌打ちをした。
そしてバリバリと頭を掻きむしった。

「…わぁーったよ」

「……!」

途端に篠岡は笑顔になる。
つられた水谷もヘラッとした笑顔になっていた。
鞄を持ち、阿部はゆっくり立ち上がる。

「阿部くん、」

「…は?」

「『勝ちたいから』、早く治ってね」

「……おー」

「モモカンやみんなにはオレらからいっとくから」

「サンキュー、んじゃ」

「じゃーなー」

そうして阿部を見送った後、水谷が篠岡に振り返った。

「…ね、ねーねー、しのーか」

「ん?なあに、水谷くん?」

「俺は、俺は西浦に必要…?」

「もちろんだよ」

途端に幸せそうな顔になる水谷を見て、
(単純だな…)
と思わず花井は言いそうになった。

『一人も欠けていい人はいないもんね』

と篠岡が言ったが、水谷には聞こえていないようだった。
花井は彼らに聞こえないように、小さくため息をついた。





Love fever
(花井〜俺も風邪ひきたい〜)
(お前なぁ…)








大好きな7組のお話でした。
みんな別人ですが。
なんかギャグなんだか甘なんだか…
とりあえず書いててさらに水谷くんが好きになった!
このこはなんか動かしやすい。
それにくらべて阿部くん難しいよ…