その頃、屋上では吾郎が大河に同じような話をしていた。
「そしたらよ、…清水のやつ、泣いちまって…
なぁ、大河、俺怒らせることしたのか?」
(本当にひでーなこの人は…)
携帯をもったまま大河は呆れたようにチラリと吾郎を見る。
「…さぁ?知りませんよ、俺は」
「何だよ。冷てーやつだな」
「………知りませんけど…
先輩、もし姉貴に好きな人がいたらどうします?」
「え…?」
吾郎を見据える大河の瞳は怪しく輝いていた。
吾郎は冷たい汗が流れるのを感じた。
「だったら最悪ですよねー、好きな相手がいるのに好きでもない人に、勝手に恋人にされて。」
「そ、そんなのいねーよ!だいたいあいつに好きなヤツがいたら、俺が知らないわけ…」
「そーッスかね。俺はそうは思いませんけど」
「………」
大河の言葉に、吾郎はぐうの音もでない。そんな彼に、更に大河は追い討ちをかける。
「…先輩」
「な、なんだよ」
「…姉貴はあんたのものじゃないんスよ。ずっと先輩のそばにいるとも限らない。そこを覚えといてください」
そう吐き捨て、携帯を閉じて大河は立ち上がる。
「姉貴は体育館裏です。さっさと仲直りしてきたらどうですか」
「あ…おい、大河!!」
去ろうとした大河を、吾郎は慌てて引き止める。
『まだなにか?』
とめんどくさそうな表情の大河。吾郎は気まずそうに頭をがりがりとかいた。
「あいつは…清水は、好きなヤツいんのか?」
そんな吾郎の言葉に、大河はニヤリと笑った。
「…さぁ?本人に聞いてみたらいいんじゃないスか?」
そう残し、大河は階段を下りていった。
「清水くん!」
階段を下り、廊下を曲がったところで、大河は綾音と待ち合わせていた。
「あ…マネージャー…ごめんな、姉貴の方任せて。なんか茂野先輩の方がめんどくさそうだったから。」
「ううん、それはいいんだけど…。たまたまとはいえ、先輩達の喧嘩聞いちゃったわけだし…私達にはこれくらいしかできないけど…」
「そーだな…」
心配そうにしていた綾音が、ふと疑問を口にした。
「でも…茂野先輩は、清水先輩のこと好きじゃないのかな…?」
「気付いてないだけでしょ。『付き合ってる人』の候補で姉貴がすぐでてきたってことは。」
(姉貴の好きな人も気にしてたし。)
と、大河は心の中で付け足した。
「清水先輩も、そこは気付いてないよね…」
「まぁ、あの人も鈍いからな」
『似た者どうしだよね』と綾音はコロコロ笑った。
「…仲直り、できるかなぁ」
「…さあ?あとはあの二人次第だし」
「そうだね…でも多分…ううん、きっと、先輩達なら仲直りできるよ…!」
綾音はにっこり微笑んだ。
「…ところで清水くん、5時間目始まってるけど…」
「いーじゃん。一緒にサボろうぜ」
「えー…」
「清水!」
名前を呼ばれ、薫は顔をあげた。目の前に、息を切らした吾郎が立っていた。
「本田…」
気まずい沈黙が続く。二人の間をいろんな思いが交差していた。
先にその静けさを破ったのは薫だった。
「…ごめん、本田」
「え…」
怒鳴られる…殴られることまで覚悟していた吾郎は、驚いて薫を見つめる。
「くだんないことで怒っちゃってさ…!何泣いてんだろな、あはは…」
(また…だ)
吾郎は思った。
福岡に黙って転校したり、試合でキャッチャーをやらせて手が真っ赤になったり…その他にも、自分は何度も彼女を振り回しているというのに、いつも彼女は最終的に許して、笑顔で応援してくれた。
今日も彼女は気持ちを押し込め、自分が悪いことにしている。
(今回悪いのは…間違いなく俺なのに)
「清水」
「えっ?」
「…悪かった」
「………」
申し訳なさそうにうなだれる吾郎を見て、薫は目をパチクリとさせた後、困ったように笑った。
「なんだよ本田ぁー、今日傘持ってきてないのに…」
「な!どういう意味だよ」
「あはははっ!」
薫がいつもの笑顔に戻ったので、吾郎はホッと胸を撫で下ろした。
そしてハッとする。
「あ、おい、清水!」
「ん?」
「…お前、好きな人いんのか?」
「は!?」
いきなり問われた薫は真っ赤になりアタフタしだす。
「な、なんだよ…いきなり。」
「いや…も、もしいたら、…そいつには勘違いされたくねえだろ…?」
「………いるよ、好きな人」
薫の返事に、吾郎はひきつり、固まった。雷が落ちたような衝撃をうけた。
「………わ…悪ィ……俺、知らなくて…」
かなり動揺している吾郎に、吹き出しそうになりながら、薫は言った。
「いいよ、もう。許してやるよ。」
「清水…」
「た・だ・し!」
「!?」
「噂が消えるまでは、ちゃんっと恋人のふりしてもらうからなっ!」
「え、…あ、お、おう!…?」
結局互いに振り回し、振り回されあいながら、幸せな日々を送る二人であった。
END
振り回される薫ちゃん。
ちょっとはいい思いをさせてあげて〜って感じですよね。
告白ん時くらい?吾郎がグルグルしてたのは。
ロスに行った時とかもおいてけぼりだったしなぁ…
まとまりがない文で申し訳ありませんでした。
← →