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Sweet Holiday


(なんでこんなことに…)


吾郎は落ち着きなく周りを見渡し、ため息をついた。






春が近づくある日。

海堂の試験にも受かり、あとは卒業を迎えるだけ──そんな時、

それは昨日の一本の電話から始まった。


「すいーつぅ?」

息子の口からありえない言葉を聞き、母、桃子は思わず吹き出しそうになり振り返った。

見ると彼は誰かと電話しているようだった。

(あらあら。デートの予感♪)

桃子はニヤニヤしながら、洗濯物を干しに庭へ向かった。





息子…吾郎の電話の相手は、幼なじみの薫だった。

内容は、『駅前のスイーツバイキングに一緒に行ってくれないだろうか』というものだった。

最初は断ろうかとも思った。
吾郎は甘いものが苦手だったのだ。それは薫もわかっているようだが、申し訳なさそうに頼んでいる。
それにもう卒業間近。聖秀へ行く彼女とは、なかなか会えなくなるかもしれない。

(まあ、思い出作りにいいか)

吾郎はそう思い、誘いにOKした。








「でもよ、何で俺なんだよ」

隣を歩く、頭一つ小さい彼女に吾郎が問うと、彼女はキョトンとして吾郎を見上げた。

「…何が?」

「何って…食べに行くのが」

「………」

急に無言になった薫に首を傾げながらも吾郎は聞いた。

「他の女友達とかと行けばいーじゃねえか」

「そ、それは…」

言葉を濁す薫に、吾郎は頭を疑問符でいっぱいにする。

「着いたら…わかる」











店の前に着いた吾郎は開いた口が塞がらなかった。

店はピンク一色。
そして

『日曜カップル限定パフェ』

の文字。

「…オイ。どーいうことだこれは」

「えーと…あはは…」

一瞬沈黙が流れ、吾郎の方へ向き直った薫は手を合わせて頭を下げた。

「お願いっ!どうしてもカップル限定のパフェが食べたいの」

「はあ!?」

(何いってんだコイツは!?)

薫以上に吾郎の顔は赤かった。

「だから…その…今日だけ、恋人のフリしてくれないか…?」
「………やだ」

「なんでー!?いいだろ、ちょっとぐらい!」

「ぜってぇやだ。」

「………
………本田……お願い……」

「…う゛っ……」

最初は否定したものの、大きな瞳に上目遣いで見つめられれば、断れるわけもなく(薫は吾郎がこの表情に弱いのを知っていた)、渋々吾郎と薫は店に入った。










「…本田…
……怒ってる、よね…?」

目の前で不機嫌そうに座る吾郎に、薫は恐る恐る尋ねる。

「…別に起こってねーよ」

それは本当だった。確かに初めは騙された気分にはなったが、別に偽の恋人になるのが嫌だったわけではなく、ただ単に恥ずかしかっただけなのだ。
周りがカップルばかりで、慣れていない吾郎には、かなり居心地が悪かった。

(あたしの恋人のフリすんの、そんなに嫌なのかな…)

そう勘違いした薫は俯き、再び無口になった。



「…ご…ごめん……」

「あ?」

口を開いたかと思うと、謝りだした薫に、吾郎は何がと聞き返す。

「……本田甘いの苦手なのに………」

「………」

「…こ、恋人のフリまでさせちゃって…」

申し訳なさそうにいう薫に、吾郎はため息をついた。

「…別にいーんだよ、それは

そのかわり!」

突然身を乗り出したかと思うと、吾郎は薫の頬をつねった。

「い、いひゃぁーい!」

手を離すと薫は涙目で吾郎は睨んだ。

「なにすんのよ!」

「んな暗い顔して食うなよな」

「え」

薫が吾郎を見ると笑いながら言った。

「じゃねーと俺が来てやった意味ねえだろ」

「…うん!」

薫はニコッと笑った。











さっきとは打って変わって、笑顔でパフェを口へ運ぶ薫を、吾郎は見つめていた。

ふいに視線がぶつかり、吾郎は動揺した。

「…そんなに食ったら太るぜ」

「いいもん。あたし今スッゴく幸せだから」

そう言って本当に幸せそうに笑う薫につられて、吾郎も微笑んだ。








END



りんさんへ

お待たせしました。
吾薫甘々小説ということでしたが…
甘々…なのでしょうか…
なんか…微妙ですみません…

まだあまり自覚してないけどラブラブな二人が書きたかったのですが…
見事に撃沈しました。

申し訳ありません。

返品&書き直し受け付けます。

リクエストありがとうございました!

これからもどうかよろしくお願いします。