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逃げることしか知らない。


「………………ふはー、」


それでも


「……ねぇ、依ちゃん」


それでも


「俺と――イイコト、しない?」


俺は、輝きたかったんだよ。



―1.フェイク



人のいなくなった放課後の教室。

窓の外の喧噪を、どうしても聞きたくなかった。


「――…えーと、芥川、部活は?」
「そう!さぁなんででしょう。なんで俺は部活に行かないんでしょう、か!」
「なんでって」
「てかさぁ、依ちゃんは?なんで帰んないの?」


気を紛らわしたかった。だから誰でもよかったけど、これはこれで


「、別に」

「見たかった?元彼が、――テニスコート、こっからよく見えるもんねぇ」


面白いかも、しんない。



寄せた眉から伝わる不快感。そうだよ。ヤケだよ。もうどうにでもなっちゃえって思ってるよ。


「…違うし。わたし、帰る」
「帰っちゃうの?気にならない?答え」
「離して」
「どうして芥川クンは部活に行かないんでしょうか」


そうだよ。


「答えは―――、レギュラー落ち、したから」
「、え……」


ヤケだよ。


「部活行く気、うせちゃった」


もうどうにでもなっちゃえって、思ってるよ。


「…あくた、――、!?」


掴んだ腕を引き寄せ、キスをした。見開いた瞳に写る情けない顔を見たくなくて、目を閉じた。


少しかさついたそこは、もちろん、甘くはなかったけど。





力使えばさ、女なんて簡単な訳よ。


「や、何するの!?」
「言ったじゃん。イ、イ、コ、ト」


暴れる膝を下半身全体で押さえ付ければ、マウントなんて楽々とれる。

俺の好きにさせてよ。


「いや、やめて!!」
「だいじょーぶ俺上手いしー?」


せめて、今だけは。


「―――ッ、芥川って、そんな最低なヤツだった!?」

『最低だな。勝てる訳がねぇ』

「……うわぁお。二回目だ、それ言われんの」


思い通りになってくれたって、いいじゃないか。


最悪なフラッシュバック。むしろ頭から離れたことなんかなかったと、胸が痛くなった。




あー、きつい。


「しょーがないじゃん、」


睨み上げてくる潤んだ瞳に、責められてる気がしてたまらなくなる。白い首筋の横、ダークブラウンの髪に鼻先を埋めた。


「なくしてから気づいたって、遅いんだよ」


言うつもりなんて、なかったのに。


「なくしてから、もっと一生懸命になってればよかったって、」


言ってしまったら、それは


「気づいたところで、もう、ないんだよ……」


認めてしまう、ことになるから。


なくなった抵抗をいいことに、指先を絡めた。目を合わせれば、さっきより濡れた瞳があった。開きかけた口を首を振って制する。


何も言わせたくない。悪いのは俺だ。


「頼むから、同情でいいから。抱かれてよ、」


わがまま。自分勝手。そんなことはわかってる。


それでも


「――馬鹿な俺を…慰めて?」


必死に、逃げ道を探すんだ。


重ねた唇は濡れていた。甘さはやっぱりなかったけど、別の何かがあった気がした。


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