あいつのために嘘をつけ | ナノ



つまらない。

「うわ、どこ?手伝うよ」
「あーいいや、へーき。次フケるし」
「…単位」
「足りてる。じゃっ」
「気をつけてね」

廊下を歩きながら思う。友達もいる、勉強もまあまあできる方で、できないものはこうしてノート運びで内申カバー。部活はしてないけどその分バイトで体を使ってる。

充実している。でもつまらない。何かが足りない。

何が足りない?

何が、

「―――え、」
「―――へ、」

「――――危ないッ!!」

足りな、かった?


触れた肩から崩したバランス。迫る階段にぎゅっと目をつぶった。



――01.



痛く、ない。

「…………………、」

確かに耳を抜ける、ノートが落ちて散らばる音。

足裏全体で床を確認し、薄目を開けたそこに映ったのは

「わり、ほんっとわりぃッ、石塚!!」

落ちる寸前に視界を掠めた赤いブタの心配顔と

「よかった…、お怪我はございませんね」

胸と腰にがっしりとまわされた、たくましい腕だった。




とにかく、ちょっと待って。

「マジ、ごめんな」
「――あ、の。確か、柳生?」
「はいそうです。どうしました?」

「近い。はなれて。大丈夫だから」

ちょっと待って、私の心臓。


ゆっくりと、本当に優しくはなれる腕。なんだこれ、立ってられない。へたりこんだ私の隣をすり抜けた背中はしゃんとしてて、案外広い。

「石塚?」
「、丸井…、あ、ごめん。ぼーっとしてた私も悪いから」
「あーでもマジ比呂士のおかげで助かったなー。立てっか?ほら」
「あ、ありがと」

痛めてないのにしびれる足。おかしい。戻ってきた彼の手には、私が運ぶはずのノートがあって。

「あ、ごめん!!」
「いえ、行きましょうか」
「へ、?」
「化学準備室ですよね」

ほんとうに

「…大丈夫。自分でできます」
「しかし」
「ほんとに、大丈夫!だから!」

焦ったりして、おかしいぞ、私。


ひったくるようにして奪いとったノート達。感覚を確かめるように、一歩一歩を大きく速く。

「…彼女、逆方向では…」
「さぼんじゃね?常習犯だし」

黙れ丸井と思った私は、やっぱりどうかしている。




逃げ込んだ準備室(道間違えて遠回りしましたが何か)。ノートを置いて一息。

「…チャイムなったら、屋上行こ」

まったく。どこが、つまらない?

「なんか叫びたい。ものすごく」

この揺れ動く心臓は

「………………、行こ」

きっと、何かの予感なんだ。


割れたチャイム。古びたドアに手をかけた。




――01.好きじゃない
(まだ平気。まだ大丈夫。…多分)


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