生きているだけで





走った。

守るために。
一目散に、走った。

「ヒューバート!!」

目の前に散る、紅
むせ返るような、鉄の香り
俺にもたれるようにして倒れる、

ヒューバート

「っ!」

頭をがつん、と鈍器で殴られたような感覚。
眼前を見据え、憎々しい相手を冷ややかに一瞥し、数秒の、間。

標的を俺へと変えた醜い塊は、奇声を発して襲い来る。
ヒューバートを抱えたまま一撃をかわすと敵の死角を疾走し、シェリアと教官の元へとヒューバートを預ける。
こちらに向き直った魔物は牙を剥き、爪を立ててこちらへ突進する。
注意を引きながら仲間の元を少しずつ離れ、十分な距離をとってから対峙すれば、込み上げるのは憎しみで

「よくもヒューバートを…!」

グルル、と喉を鳴らす魔物に、居合を一撃。
更に幾度かの剣撃を繰り出し、苦しげに悶えるそれに追い撃ちをかけるように剣を突き立てる。
ぐったりと倒れて浅い呼吸を繰り返している魔物から剣を引き抜き鞘にしまう。
鞘に剣が収まり、カチンと音が鳴ると、それと同時に魔物は息絶えたようだった。

「ヒューバートは」

無事だろうか
思い出すだけでもゾッとするような血の量だった。

踵を返し、皆の元へ視線を送ると、ぐったりとしたヒューバートの姿。
それを両の目で捉えると、元来た道を全力疾走で駆け戻る。

走ったあとの肺の痛みを感じながら弟を見れば、弱々しいが微笑みをくれて。


その笑顔に、安堵感と愛しさが俺を支配した。





(無事で、よかった)
(にいさん、心配をかけてすみません)
(お前が生きていればそれだけで十分だ)



(11.06.29)

修正をいれて前サイトから引っ張ってきました。
引っ張ってきたのばかりで申し訳ないです(´・ω・`)



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