素直になれない




信じたくなかった
7年越しの再開であなたを見つけたとき、僕の体が甘く痺れたなんて。

兄さんは何にも変わっていなかった。
父の面影の残るその顔つきだけは、すっかり青年のそれに変わっていたが。
それでもにいさんを一目見て兄だと気が付いたのは、血の繋がりもあるだろう。



すこし昔話をしましょうか。

ぼくがラントに…家族に捨てられてから、にいさんはずっとぼくの身を案じて手紙をくれていた。
汚い字ではあったが、その雑な字が兄さんらしくて、ぶっきらぼうだが優しい言葉に涙したことすらあった。

しかし、ぼくは返事を送ることはしなかった。

だって、父さんがぼくを捨てたのは、きっとぼくが兄さんを好きなのを知っていたから。
だから、ぼくと兄さんを引き離したのだろう。
それなのに返事を書いたら。
返事を書いたらぼくだけじゃなく、兄さんまでどうなってしまうかわからないから。
そう考えると、ただただ送られて来る手紙を読んでは、想いを胸の奥にしまった。
そうして年月が過ぎれば、兄さんからの手紙は次第に来なくなっていった。



そうして、現在。
目の前にいる実の兄を見ただけで、ぼくの気持ちはかき乱される。
背中に、電撃が走ったかのような感覚を覚えた。
もう兄への気持ちには片が付いたと思っていたのに…。

平静を装い、任務を遂行しようとフェンデル兵を切り捨てる。
すべてを片付けたのちに兄さんが声をかけてくれたが、素直な返事は出来なかった。

本当は、昔のように兄さんに甘えたかった。
昔のように兄さんに抱きしめてほしかった。

そう思うのに、気持ちとは裏腹の言葉ばかりが口をついて。
兄さんを傷つけるように、わざと鋭利な言葉で突き放す。


一人窓際で紡ぐ言葉は自分に言い聞かせる言葉で。
全身を駆ける痺れと鼓動を、幼い頃のように胸の奥に押し込めた。




(ラントを出ていってもらいます)
(そんなことを言いたかった訳じゃない)
(本当は、ずっと一緒にいたい)




(11.06.29)

修正をいれて前サイトから引っ張ってきました。
アスヒュは兄弟なので動かすのがなかなか難しいです(´・ω・`)(´・ω・`)



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