不可解





不可解。
アンが自分を好きになると言うことが。

自分は機械人だ。
擬似スピリアを搭載してはいるが、所詮は作られた存在に過ぎない。
そんな物に恋など出来るのだろうか?

確かにヒスイとリチア様もお互いを想いあっているようだが、種族は違えどスピリアを持つ生き物同士だ。

だがしかしアンと自分は生き物と機械。
違い、隔たりが大きすぎるのだ。

「あっ!クンチャイトだ!」

一人思考に専念していると、遠くから聞き覚えのある声が響く。
小走りで自分に走り寄る姿も、もう見慣れたものだ。

「…アン、一人歩きは危険だ」
「ひとりじゃないよ、クンチャイト!
今日もおかっぱのお兄ちゃんに連れて来てもらったの!」

アンから少し離れた場所には、確かにカルセドニーが立っていた。
アンは、いつもカルセドニーと共に自分の元へやって来る。
そして、毎回自分と会話をしては夕刻頃に帰って行く。

「クンツァイト…お前も大変だな」

また思考していると、カルセドニーがそう発した。

「否。
大変ではない。アンとの会話は他愛のないものだが心地好い時間だ。」

カルセドニーは自分の発言を耳にすると少し意外だというふうな表情を見せた。
自分でも、自分がアンとの会話を心地好いと感じていたのが不可解だった。

「そうだ、今日は急ぎの用事があるので夕刻にアンを迎えに来られないのだが…
両親の元へ連れ帰って貰っても構わないだろうか?」
「了解した。」

否定する必要もないので肯定する。
するとカルセドニーは「すまないな」と言い残し去って行った。

「ねえねえクンチャイト!今日もお話しよ!」
「了解した。」

アンが笑顔で足元にしがみついて来るので、それを了承する。

「今日はね、クンチャイトのおはなしだよ!」

アンは楽しそうに笑っている。
その姿を見て自然と顔が綻んだ気がした。





すっかり暗くなり、辺りは静寂に包まれつつあった。

「クンチャイト、今日もいっぱいお話聞いてくれて有難う!」
「問題ない。
が、いつもより時間が掛かったせいかすっかり日が落ちている」
「んー…パパとママ心配してるかな…?」
「肯定。両親は今頃不安に駆られていると推測する。
これよりアンを宿まで送り届ける」

そう言って立ち上がると、にこ、といつものような笑みをこちらに向け、元気に歩きだすアン。
そんなアンをひょい、と抱え上げる。

「え?」

確かベリルが「お姫様だっこ」と言っていただろうか?
幼いアンを横向きに抱きかかえると、小さな身体は両手にすっぽりと収まってしまった。

「クンチャイト?」
「これよりアンを抱え宿へ向かう。
落ちないようにしっかりつかまっていろ」

そうして暗い道のりを宿まで疾走する。
途中段差を飛び越えた時にアンが楽しそうにきゃあきゃあ言っていた。

「到着だ」
「クンチャイトありがとーっ!」

宿の前に付き、抱えていたアンを下ろそうとすると、頬に温かい感触がした。
幼い幼いキス。
頬を赤らめるアンに不可解な感情は膨らんでゆく。

「クンチャイトだいすきっ!」
「…自分は……。自分も、アンの事は憎からず思っている」
「?? にく…からず?
…アンのこと好きじゃないってこと?」
「否。
その逆だ。アンの事は好意的に思っている」

言葉にしたら最後、不可解な感情は溢れ出して止まらない。



「アン、自分もアンの事を特別に想っているようだ」



2000年の時を経て出会った幼い少女と機械人。
越えられない隔たりなど存在しないと知った機械人は、少女と同じ幼いキスを額におとした。



(不可解、たまにはそれも良いかもしれない)



(11.02.01)
多分そのうち訂正します…
ハイスピードで書くと文がぐちゃぐちゃに…orz



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