狂った愛情




コツ、コツ、コツ。

一定のテンポで聞こえてくる足音。

コツコツコツコツコツ。

少女…シェリアが速度を変えると、それと同時にテンポが変わる。

「……っ」

思い切って振り返る。
が、誰もいない。人がいた形跡がない。

「一体…なんなの…?」

あまりの不気味さに言い知れぬ恐怖を覚えるシェリア。
『家に帰れば祖父がいる。安心出来る。』
そう言い聞かせ、恐怖を感じる体を叱咤し踵を返す。

コツ、コツ、コツコツコツコツ。

再び始まる旋律。
シェリアの後にピッタリと同じテンポで。

恐怖を振り切りもう一度振り返る。
……やはり誰も居ない。

「わたし、疲れてるのかしら…」

そうだ、疲れているだけだ。気にするから恐ろしいのだ。
そう考え、再び家路に視線を返す。

「っ!!!!!!!!」

叫び声を上げそうになる。
目の前に突然人が現れたからだ。

しかしシェリアがその人物を理解すると、安心したようにため息を漏らした。

「レイモンさん…」

そんなシェリアを見たレイモンは妖しく笑う。

「シェリアさん、こんな夜更けに女性の一人歩きは危険ですよ?」

心配するかのような口ぶりだが、それが口先のみだというのをレイモンの妖しい笑顔が物語っている。
そんなレイモンの笑みに再び恐怖を覚えたシェリアは、その場を立ち去ろうとする。

「っ…そ、そうですね…でも、もうすぐ家ですから…失礼、します」

そう言って一歩を踏みだそうとするが、それはレイモンの右手によって防がれた。

「あ…あの」
「シェリアさん」

レイモンの妖しい眼力に、金縛りにあったかのように動けなくなるシェリア。

「ああ、やはりシェリアさんは美しい…」

そう言いながらシェリアの頬に指を滑らせるレイモンは、うっとりと語りはじめた。

「私は、はじめて貴女を捕らえたときから貴女に心奪われてしまったのです
貴女の怯える顔は何より美しい…。私の傷を癒してくれた後の優しい微笑みも捨て難いですが…」

怯えるシェリアの顎を持ち上げ、妖艶に笑む。

「やはりその表情…それが一番魅力的なのです…
私が後を付ける足音に怯える顔…私を前にして驚いた顔、そして今まさに恐怖の頂点に達したと言うその表情!!!」
「――っ!」

まくし立てるようにそう言うと、有無を言わさぬ勢いで深く、噛み付くように口付ける。

「…っんん」
「…っは、歪ませたい…」

無理矢理な深い口付けを終えたレイモンの双眸には、シェリアしか映らない。
腰が砕けてへたりこむシェリアを抱え上げると、真っ直ぐとどこかへ向かって行く。

「シェリアさんを私だけの物に…」

そう呟いたレイモンの背中が闇に溶ける。
レイモンとシェリアの行方を知る者は誰として居なかった。



「もっと恐怖に歪んでくださいね」



(この人からは…逃げられ、ない)



当の2人、以外は。



(11.01.31)

レイ→シェリをプッシュするあまりにやってしまった作品
マイナー上等です(`・ω・´)キリッ


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