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magica
この人は、本当にいつだって変わらない。俺達姉弟の前にふらりと現れたとき、ふと思い出した。ここじゃないどこかで戦火に包まれたときも、抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなるくらい圧倒的な敵を前にしたときも、それこそ世界が終わろうとしているときだって、この人が信じるのはいつもたった一人…自分だけだったことを。
それでも俺達に関わるのは、姉ちゃんのことを気にかけるのは、遠い遠い昔、共に戦って共に死んだ仲間だったからなのだろうか。
断続的に見る夢は俺だけのものだった。姉は時折どこか遠くを眺めているようなこともあったけど、「ここじゃない何処かでも姉弟だったよね」なんていう話をしてきたことはない。きっと、こういうことは誰にも言わないほうが良い。そっと心の内に閉まっておくべきことなんだと思っていた。
見間違えるはずもない、若草色の髪をした細身の男を知るまでは。
「お前ら、また同じ名前かァ?」
ナギはここにもいた。相変わらず、肩に乗った埃を見るような険しい顔で俺達を見て、心底面倒そうに話しかけてくる。きっとナギは俺と同じことを知っていて、どうしようもなく全てを覚えている。近い未来、世界は悲しみに包まれる。俺達がここに存在していることが何よりもそれを証明していた。
「ほんとうのアベルは俺だよ。孤児の俺達はふたりぼっちで育って、いつのまにか姉ちゃんはアベルって名乗り出した。」
「………あいつは何処だろうと、ああいうワケわかんねえ奴だろうからな。」
「姉ちゃんは自分から言わないだけで、いろいろ覚えてると思うよ。いろんなこと考えて、あえて言わない。ほら、口ベタだからさ。」
ほんと、どうしたって出会ってしまうんだな。