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 ー朝起きて、突然目の前に大きな箱が置かれていたらどうするだろう。

 俺の場合は今日の朝飯の事を考えながら現実逃避を試みたが、なにやら箱がガタガタと自己主張を始めたのでそろそろ開けてやろう。でないと最終的には俺の命も危ない。

「………プハァッ!息苦しいんだよ早く開けろよ殺すぞ!」
「まずなんでそんなのに入ってんだよ!!」

 コイツの“殺すぞ”は洒落にならないから恐ろしい。まあこのキレ方ならまず本気では殺りはしないだろうが。

「えー…折角仕事持ってきたのにぃ」

 箱の中に入っていた男、ビリーが大して可愛くもない間延びした口調で話す。大分苛つくがそれは今問題ではないのでスルーしよう。
 今の問題はコイツが持ってきた仕事だ。

「殺しはやんねーよ?」
「またまたー!“COC”に加入しておいてそんな融通聞かないよー」

 “COC”。俺が働いている組織の名前だ。ここのトップにいるのがあの箱に入っていたビリーらしいが、大切なのはここが小規模な“犯罪組織”だということ。まあ小規模なのは人数だけで、やっていることは大規模なところと何ら変わりないのだが。
 俺はまあ半分以上コイツの我が儘で“殺し業務免除”という条件で加入させられたので仕事はただの使いっぱしりだが、何かあるとここぞとばかりに俺にも殺させるから油断ならない。因みに条件の話を持ち出すと笑って誤魔化される。

「まあ今回は大丈夫!ただのお使い。ここに行って“CCSの使いで荷物受け取りに来た”って言えばいいだけだから」
「…それだけ?」
「そうそう、楽でしょ?」

 まあそれだけなら、と引き受けたのが間違いだったと、この後壮絶に後悔する羽目になる。





「ただいま…」
「おかえりー!あれ、荷物受け取るだけにしてはボロボロだね。どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねぇよ!お前あれが狙いだったろ!?」

 あの後、言われたとおりの台詞で言われたとおりの建物に入った俺を迎えてくれたのは無数の銃口だった。
 けたたましい音と同時に飛んでくる鉛玉を全て避けられる筈もなく、五つ程打ち込まれながらもほぼ全員ー荷物の受け取りはしなくてはならないので、その為に一人は生かしていた。最終的にはソイツも御陀仏となったのたが。ーの始末を終えたのが二時間前。これだけの傷のまま二時間も経過してなお、未だコイツを怒鳴る元気があるのだから慣れとは恐ろしい。

「まさか、そんな事はないよ。本当に荷物を取りに行って欲しかっただけ。ただ、あわよくば“そっちの仕事”もと思っていたことは否定できないけどねー」

 もう既に片手では数え切れない程に同じ方法で騙されている俺は鶏並の脳味噌しか持っていないらしい。

「まあそれは置いておくとして、ちゃんと貰ってきた?」
「貰ったよ。これでいいのか?」
「えー…と、うん。オッケー!ありがとう」

 これだけの危険を侵してまで俺が受け取った荷物、包帯。たかが包帯のために何故ここまでと思ったが、“姐さん”からの頼まれ事だそうなので仕方ないだろう。

「この程度の傷なら僕でも手当て出来るし、折角だから今貰ってきた包帯でやってあげるよ」
「え、でもこれまた姐さんに届けるんだろ?勝手に使ったらヤバいんじゃ」
「どうせスカフにしてもらっても使われるのはこの包帯だし、結果は同じだから大丈夫だよ」

 そう言われると確かにそうだ。行くならどうせついでにと包帯を持たされるんだから、結果は変わらない。それなら今は大人しく手当てを受けることにする。

「明日はこの包帯を姐さんの仕事場まで届けてきてねー」
「今度は本当に届けるだけなんだろうな」
「もちろん。さっきだってうまく行けば争う必要なかったでしょー?」
「名乗った途端に弾丸が飛んできたんだけど本当にそれで争わずに済むと思ってんのか?」

 しばらくコイツと過ごしてわかったことは、嘘を吐くのと話を変えるのがとても下手だということだ。口笛を吹きながら俺の手当てを始めたビリーに、また俺は似たような手口で今回みたいな仕事を回されるんだろう。
 大人しく雑用だけをこなすようになる前に、先に殺しに慣れそうだ…。銃弾の抜かれる痛みに耐えながらそんな事を考えていた。



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