短編小説



□ 肉食?草食?それとも…
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今日は長州藩邸で会合があるらしくて、寺田屋のみんなはいなくなってしまい、危険になるからって、わたしも連れて行ってもらう事になった。

というのは建前で、本当は高杉さんの相手をしてやってほしいって、桂さんたってのお願いで連れてこられたみたい。

会合の後に宴会もあるから、今日はみんな寺田屋に戻れないみたいだし。
一人で残るのも寂しいから、お言葉に甘えてわたしも長州藩邸についてきた。

会合の間は、高杉さんに「何か面白い遊びを考えておけ」って言われて、別の部屋にいたんだけど。
会合が終わった様子で、桂さんが部屋にやってきて夕餉を兼ねた宴会が開かれるのを知らせてくれた。


「さあ、宴会を始めるぞ!」


機嫌良さげに声を上げた高杉さん。
だけど、急にわたしの方を振り返ったかと思ったら、不満げな声を出す。


「なんでお前がそこなんだ!」

「え、なんでって言われても…」


慎ちゃんにここって言われたから座っただけなのに、なんで怒られないといけないんだろう……。

上座の方に高杉さんと大久保さん。
そこから順に龍馬さんと桂さん。
武市さんと以蔵。
そして、慎ちゃんとわたしなんだけど……。


「納得いかん!お前はオレの横に座れ!」

「上座になんて座れませんよ!」

「そうだ、晋作。あまり困らせるものじゃない」


桂さんが笑顔で高杉さんを諭してくれる。
でも、なんだろう。
その笑顔に妙な迫力を感じるのは……。


「ちぇ、分かったよ」


高杉さんは諦めてくれたらしいけど、すごく不満そうに口を尖らせている。


「まあまあ、高杉さん。今日は大久保さんも居る事じゃし、いずれにせよ座る所なんてないぜよ」


龍馬さんも二カッと笑って宥めてくれる。


「そうだな……。じゃあ、宴会を始めるか!」


そう言って、一気に宴会ムードになり、騒がしくなる。
龍馬さんは鶏鍋が出て大はしゃぎして、お酒は後回しに鶏ばかりつついている。

あまりにも鶏肉ばっかり食べてるから、わたしの頭の中に『肉食動物』って言葉が浮かんだ。
そうしたら今度は『肉食男子』って言葉が浮かんできて……。


「龍馬さんは肉食って感じかも……」


よく分かんないけど、龍馬さんは好きな人には好きってはっきり言いそうな気がする。

今度は目の前に座っている慎ちゃんを見てみる。


「見た目は草食、かな…。でも、やっぱり肉食かも」


慎ちゃんも好きな人には好きって言いそうだし、好きな人は命がけで守りそう。

隣に座る以蔵を見る。


「一番肉食な見た目だけど、中身が草食っぽそうだな……」


っていうか、武市さんの事以外、興味なさそう。
そう思い、以蔵の向かいに座る武市さんを見る。


「なんか、よく分かんないや…。肉食にも見えるし、草食にも見えるかも」


桂さんを見る。


「綺麗すぎて、見た目じゃ判別不能……と」


今度は高杉さん。


「完全、肉食系」


考える余地もないね。
最後に大久保さん。


「誰かを好きになる事あるのかな……」


もう別の話にすり替わってる。

すると視線を感じて、みんなを見たら、全員がわたしを見ていた。


「え、なに?」


わたしの疑問に、以蔵が答える。


「なに、はこっちの台詞だ。さっきから何をぶつぶつ言ってる」

「あ、あはは……。みんなを肉食と草食に分類したらどっちなのかなって思って……」

「にくしょく?そうしょく?また新しい言葉を使ったな!どういう意味だ!!」


さっそく興味を持った高杉さんが身を乗り出さんばかりに聞いてくる。


「えっと……、肉食っていうのは、女の人に対してがつがつしてる男の人の事です」

「乾みたいな奴の事ですか?」


武市さんがわたしに問いかける。


「あ、そうです。あんな感じです」


うん、そうだ。あの人こそ、肉食って感じだ。


「そうしょくっていうのは?」


今度は桂さんがわたしに問いかける。


「肉食の反対の事です」

「つまり女子に対してがつがつしていない人の事っスね?」

「うん、そう」

「じゃあ、ワシは『そうしょく』じゃな!」

「嘘をつくな、龍馬。お前も『にくしょく』だろう」


容赦ない以蔵の一言。
まあ、わたしも肉食って思ったんだけど……。


「な!?乾さんと同じにせんでほしいぜよ!ワシは惚れた女子一筋じゃ!」

「ハハハ!坂本が『そうしょく』なら、オレはもっと『そうしょく』だな!」


高杉さんが自慢げに胸を張って答える。

いえいえ、あなたが草食男子とかありえませんから。
っていうか、何か勘違いしてる。


「あの、女の人にがつがつしていないって言うのはそういう意味じゃなくて、好きな女の人に対しても消極的って意味です」

「ん?どういう事だ?」

「だから、その……好きな人に対して『好き』って言えなくて、その人に『好き』って言ってもらうのを待っているような感じの人の事を言うんです」

「なんだ、それは!ただの腑抜けじゃないか!」

「わたしの時代にはいっぱいいるんですよ」

「ワシは断じて『そうしょく』じゃないぜよ!でも『にくしょく』でもないぜよ!」


龍馬さんが慌てて訂正を始める。


「オレだって『そうしょく』じゃないぞ!『にくしょく』でもない!」


高杉さんまで訂正を始める。
すると、今まで沈黙を保っていた大久保さんが口を開いた。


「その二つの言葉の中間の意味の言葉は無いのか、小娘」

「中間ですか…。ないですね」


すると、高杉さんが二カッと笑って言った。


「なら、お前が知っている言葉で作ればいい!」

「え!作る!?」

「そうだ!」


いきなり言われると難しいな…。
肉食と草食以外に『何食』があったっけ?
うーんと、えーと……。


「あ!」

「思いついたか!」

「はい!」

「なんだ!」

「雑食!」

「どういう意味だ?」

「なんでも食べる!」


一瞬、みんなの顔がぽかんとしたと思ったら。



『にくしょくより質が悪い!』



みんなの声が揃った。
まさに異口同音。

でも、なんで質が悪いのか、さっぱり。

そのとき何人かが『男を相手にする趣味はない』とかなんとか呟いていたけど、わたしには意味が分からなかった。

結局、女の子は自分に対してだけ肉食になってくれる男の人に憧れると、わたしは思う。



[終]






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