静臨



季節は梅雨を迎えた六月、雨はただ己達へと振り続けていた
夏の蒸し暑さは無くじめりとした冷風が頬を擦る、背中がぞくりとした
目の前で普段掛けているサングラスを外した男は何処が不安げに自分を見ていた
己が一歩後ろに下がれば死ぬ、と言うのを理解しているからだろうか、何故ならばここは50階建てビルの屋上だからだ
降りしきる雨は声を掻き消す程迄にざあざあと降っている

「臨也、」
「俺ね」

開かれた唇から発せられた名前は何処か憂鬱を表すように感じられたが、それを妨げるようにして己も口を開いた
何時もならば口喧嘩で終わるそれが今日は違っている、その空気くらい単細胞でも理解できるだろう
緩慢とした足取りで落ちそうな場所の一歩手前を歩く、ここから落ちたら自分は呆気なく死んでしまうのだろうか、そんな事を考えながら空を眺めていた

「シズちゃんの事本当は嫌いじゃなかったんだよ、どちらかと言えば好きだったかな。なんて、もう知ってるよね、バレちゃったんだから。けど、そしたら俺、こんな、凄く、幸せで良いのかな」

きっとお互いが好きだったとわかり合ってしまった二人は、幸せになってしまうのだろう、まるで何処かのおとぎ話みたいだ
そしたら今までお互い不幸だと嘆いていた二人はとても幸せな時間を過ごすだろう
有りがちなハッピーエンド、何処かへいってしまったバットエンド
一歩、一歩と踏み出す方向はただひたすら足の踏み場のある前だけ、足元が揺れ雨が気持ち悪い

「…俺が死んだら、シズちゃんはやり直せるかな?」
「ッい…ざや…!何言って…」

右へ足を踏み出すと体が浮いた
最後に見えたのは彼の金色に輝く瞳のみ

追うように踏み込んだ足、紅色の





2010.06.21

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