一仕事終えて金が入ったところで運悪く置き引きに遭い、途方に暮れていたところに声をかけてきたのは一人の若い娘だった。
「最近このあたりの街道で山賊がよく出ているらしいので、目的地までの護衛をお願いします」
 そう言って微笑んだ少女は、一人旅をしているというのが疑わしいほど、小柄で華奢だった。
 それから、時には野宿もしながら、目的の街への道を進んだ。道中は噂のように山賊に出会うこともなく、天候も穏やかだった。その間、少女は暇だからと何か話をするようにせがんだ。
 自分のことはほとんど語らないまま、ずっとギィの話に耳を傾けていた。特に、彼の故郷の生活や、部族についての話に興味を示した。
 そして、なんの滞りもなく街に到着した。
 旅の間は依頼主である少女が食事の工面をしてくれていたおかげで、栄養不足でボロボロだった体調もすっかり元に戻っていた。
 ギィは依頼金の入った袋を受け取ると、少女に尋ねた。
「なあ、山賊が出るって本当だったのかよ」
「え……確かに私はそう聞きましたよ。その人の情報が間違っていたのならば話は別ですが」
 ではありがとうございました、と、出会ったときと同じように微笑んで、少女は去った。
 あっ、おい! というギィの静止の声に気付いてか気付かずか、振り返ることなく、少女は広場を通る人々の中に紛れていった。
 その姿を見失った後も、柄の悪そうな男にぶつかられて怒号を浴びせられるまで、ギィはその場を動くことができなかった。