夜半のひんやりと澄みきった空気の中にいて、自分の身体と顔が嫌というほどに熱を持っているのを感じる。 「ん……!」 舌が唇を割り口内に押し入ってくる。その未知の感覚に、私は身をよじらせて抵抗の意を示した。 しかし、そんな私の心情に反比例して口付けはますます深くなっていく。もたれる砦の外壁が、逃げ道はないと暗に語っているようだった。 相手の舌先が自分のものに触れる。どうしたらいいのかわからなくて頭がパニックになる。 歯の裏がなぞられる。結局されるがままでいるしかできず、そのままただ身構える。 すると、不意に熱が消失した。重なっていた場所が夜の冷たい空気に撫でられる。 存外にあっけなく離れていった唇に、私は寸止めされたような焦ったさと違和感を覚えた。それでも十分すぎる刺激ではあったようで、自分でも驚くほど息が荒くなっていた。 目の前の男も私の様子が意外だったのか、怪訝そうな顔で覗き込んできた。 「おいおい、大丈夫かよ」 「っ……あなたが言いますか……!」 私は非難を込めた視線を男に向ける。しかし、男は動じることもなく、それどころか笑みを浮かべていた。 「ちょっと嫌がってるのが燃えるもんなんだよ。知らなかったのか?」 そういう話をしてるわけじゃないと思うのだが。今は何を言っても言い負かされそうなので、私は心の中だけでそう反論した。 すると、相手のほうは得意になりはじめているのか、相も変わらずに突っかかってくる。 「イーリスの軍師様は恋の知識はお手上げみたいだからな」 「ば、バカにしないでください。いくら記憶がなくなったって恋の概念くらいわかりますよ」 「経験ないのは事実だろ?」 「…………そりゃあ、」 私は言葉をつまらせた。私の記憶が始まってから、そう何年も経っていない。クロムに助けられたときから今までずっと軍師としてやれることはやってきたつもりであるし、経験があるほうが不合理だというものだ。 「まあ、そんな顔するな。俺がこれから色々教えてやるってこった」 「でも、これ以上はムリでしょう?」 「今は、な」 そう言って男は不的に笑って見せた。ぼんやりとした薄暗さのなか微かに見えたその表情に、私は身を固くせずにはいられなかった。 (それはここまで、の線) −−− お題:hmr |