戦いが終わって数ヶ月。侯爵様が亡くなり、孫娘のリンも爵位を継がず故郷へ戻ることが決まったことから、キアラン領はオスティアの統治下に置かれることとなった。

「ウィルは一度フェレに帰るのね」
「ああ。さすがに両親にも顔見せないとな。これからのことはゆっくり考えていいってケントさんも言うし」

 そう答えるウィルの表情は清々しい。一介の旅人は、今はキアランどころかリキアの中でも名高い弓使いとなった。当初の目的とは違ったが、地に足をつけて立てるようになった自分を見せることに後ろめたさが微塵もないのだろう。

「みんな除隊しちゃったらつまらなくなるなあ」
「えっとさ、そのことなんだけど…….もしよかったら、俺と一緒にフェレに来ないか?」
「……え」

 今、なんと。その言葉の意味を測りかねた私は、ただ体を固めるしかなかった。

「あ、いや、別に今すぐどうにかなろうって言ってるわけじゃなくて、たまには気分転換もいいと思ってさ。朝起きて、一緒に飯食って、狩り行って、村の手伝いしたりして……それでもやっぱりキアランに残るってなったら、それはそれでいう事なしだし」

 私はウィルの言うような生活を想像した。今までに経験したことのないものだということは確かだ。侯爵とリンのいなくなったこの地を、わざわざ離れなければいけない理由もないけれど、故郷であるということ以外に残る理由もない。私は大きく頷いた。
 すると、いつも笑顔の彼のとびきりの笑顔が見られた。