宿の廊下を歩いていると、前方から小走りでやってくるコーマと出くわした。
「お、ナマエじゃねーか。ちょうど良かった、今暇か?」
「え、うん、まあ」
「じゃあ一緒に来いよ! いい場所があるんだ」
 言い終わると同時に、コーマは返事も聞かず私の手を掴んで駆け出した。



「ここ……礼拝室?」
「ああ。モルダのだんなに言われて最近毎晩祈ってんだけど、これが結構いいんだぜ」
 宿の端にある礼拝室は、木造の簡素なものだったが、どこか温かみがあり入ると心が落ち着く気がした。
 コーマに続き室内の奥まで進む。毎晩やっているというだけあってすっかり慣れた様子で、その場に正座した。
 私が立ったままでいると、隣を叩いて座るよう促された。
「一日の出来事を思い出しながら、一つ一つ反省していくんだ」
 コーマのよく通る声が静かな礼拝室の中に響く。
 私は言われた通りに目を閉じ、今日のことを振り返り始めた。
 朝起きて、顔を洗って、日課をこなし、朝食、行軍、目的地である街につき、夕食をとり、今。代わり映えしない、いつもの一日だ。これをどう反省すればいいのだろう。あれこれ考えてみても、すぐには浮かばない。
 薄目を開けて隣のコーマを盗みみると、神妙な面持ちで祈りに入り込んでいた。それを見てすぐに正面に向き直る。反省、反省−−。
 思索にふけっていると、どこからか眠気がやってくる。頭が回らない。なんとか抗おうとするも、意識は薄れていくばかりだった。




 一日の行動への反省を終え、大きなため息を一つつくと目を開ける。ふとナマエを連れてきていたことを思い出し、横を見ると、首をこくりこくりと揺らしながら寝こけていた。締まりのない光景に苦笑を零す。
 膝をついたまま移動し、ナマエの前方に回り込むと、顔を覗き込んだ。口がぽかんと開けられたその寝顔は少々間抜けである。コーマは吹き出した。
 それに反応してか、ナマエの身体がビクリと跳ねた。意識の戻ったナマエとコーマの目が合う。あ、やべ。とコーマは心の中で呟く。
「ちょっ……何やってんの!?」
「あー、悪い。気持ちよさそうに寝てるなーと思って」
 はは、と誤魔化すように笑うと、ナマエはますます顔を赤くしてコーマの膝を叩いた。
「それにしても、さすがの俺も居眠りはやったことないぜ。だんなに知れたら説教もんだな」
「べ、別に私はお祈りしろって言われたわけじゃないもん」
 言葉とは裏腹に、その顔には焦りが窺える。必死で弁解するナマエの様子に笑いをこらえながら、次があればちゃんと起こしてやろう、とコーマは反省した。