ナマエが砦の中を歩いていると、廊下の途中でガイアとばったり鉢合わせた。その手には黄金色の焼き菓子が抱えられていて、目が引かれた。
「美味しそうな焼き菓子ですね。どこで?」
「ああ、セルジュが食事当番ついでに焼いたそうでな。分けてもらったんだ」
 心なしか嬉しそうな顔をして語るガイア。
 分けてもらったという量じゃないと思うが、と内心苦笑すると同時に、ナマエは表情を曇らせて視線を落とした。
「ナマエ? どうかしたか?」
「いえ……私は一応あなたの妻なのに、何もそれらしいことをしてあげられていないなあと思いまして」
 自嘲ぎみに話すナマエ。
 それに対し、ガイアはケロリとしていた。
「そんなのは仕方ないだろ、お前は軍師の仕事で忙しいんだから。俺はお前がいてくれるだけで充分満足してるぜ?」
「ガイアさん……」
 当然のように言うガイアに、ナマエはじんと胸が温かくなるのを感じた。
 しかし、その言葉があってもまだ自分がいい妻ではないという後ろめたい気持ちは消えなかった。むしろ夫の気遣いにますます申し訳なく感じ、ぐっと下唇を噛んだ。
「なんだ、まだ納得いかないのか? ……なら、そうだな。お前から貰いたいものが一つあるんだが……」
「? なんですか!?」
 求めるものをちらつかせられ、顔色を変え詰め寄る。
 と、その刹那、ガイアの顔が近づいてきたと思うと、唇に押し当てる感触を感じた。思わず目を見開く。
 が、何が起きたのか理解する間もなく、そっとその感触は離れていった。
「こいつでいい」
「……〜っ!!」
 にやりと笑ってみせるガイアに、ナマエはようやく彼の一連の行為を理解した。顔を真っ赤にし、声にならない声をあげる。
「仕事あるんだろ? じゃあな、ありがたく頂いとくぜ」
 片手をあげてあっさりと去っていくガイアを、ナマエはその場に立ち尽くしてただ見つめるしかできなかった。