注意
※今後の展開において、ルカがあまり主人公に好意的ではありません
※捏造満載(主にルカの過去と魔道に関する設定)






 ルカと初めて出会ったのは街の学問所だった。
 それなりに大きな商家に生まれた私は、歳が十を超えようかという頃に当然のようにそこへ入れられた。子供を日中働かせなくともよいある程度裕福な商人や職人の子女が、読み書きや計算、その他教養を学ぶための場所である。
 その中にあって彼はひときわ目立つ存在だった。
 まず何よりも、その地域を治める領主の息子であったということがある。一定以上の身分や財力を持つ貴族の家では、専属の家庭教師を雇い市井の者と関わることなく屋敷の中だけで教育を施すのが一般的であったため、ルカのような立場の子を預かるのは珍しかったらしい。そのせいか教師も子供たちも、多くは彼に対して腫物に触るような態度をとっていたように思う。これはあとからわかったことだが、ルカがそのような場所に通っていたことは、歳の離れた異母兄を含む彼の家の複雑な事情と無関係ではないだろう。
 そしてもう一つは、彼の飛び抜けた出来のよさだ。上は十三、四歳の者もいた中で、私とそう歳の変わらないはずのルカは算術や歴史、文学や詩の暗誦、芸術に至るまで年上の子供たちの度合いを優に超えて、あらゆる科目を軽々とこなしていた。そして幼さに見合わない大人びた性格や落ち着いた物腰――その生まれ故であろうか――も相まって、周囲から一目置かれると同時にどこか遠い存在だった。
 それとは正反対に、末娘として奔放に育ったうえに遊びたい盛りでもあり、大人しく椅子に座っていることすら困難だった私は、彼が「やんごとなき相手」であることを微塵も感じ取らずいつしかルカに引っ付きまわるようになった。当初は単純な尊敬の念や彼に対する好奇心からの行動であったと思う。それからしばらくすると、当たり前に出来が悪かった私はルカに勉強を教えるようせがむようになっていた。
 先生に聞けばいいのに、と怪訝そうなルカに「だって、ルカの説明のほうがわかりやすいんだもん」と食い下がる。そんなやり取りを毎日のように繰り返していた覚えがある。しぶしぶといった様子でペンを取るルカはなんだかんだと言えど、いつも私が納得するまで付き合ってくれ、拒絶されることは一度もなかった。
 ――あの方は私たちとは違うんだから……。
 領主の息子と自分の娘の関わりを知った母は、諭すような声で言った。「取り入れ」でも「距離を置け」でもなく、ただ「違う」のだという事実を聞かせられたところで私にはその意図を掴むことはできなかった。そのときの私にとってのルカは賢くてやさしい、大事な友達であって、他の何者でもなかった。

 自分の将来のことも、これから起こる大地の渇きや途方もない戦のことも、何も考えずにいられた時代。
 幼い日々の幸福な記憶は、今も胸にある。