リゲル帝国の夜は冷え込みが厳しいかわりに、星がよく見えた。
 刺すような冷たい空気に背筋を縮ませながら一面に宝石をばらまいたような夜空を見上げると、胸を掴まれるような郷愁に駆られる。ついこの間まで自分はあの小さな村で一生を終えるのだと思っていたのに、いつの間にかずいぶん遠くまで来てしまった。

「故郷が恋しいですか」
「うん……やっぱり、すこしは」

 暗闇に紛れてルカの表情は見えない。しかし、私の目にはいつものやさしい笑みを浮かべるルカが映った。
 ルカの笑顔には時々裏がある。
 私が初めて人を斬って泣いたことも、クレーベさんとマチルダさんのお互いを慕う気持ちも、こうして私が故郷を想って感傷に浸っていることも、ルカにとっては理解はできても共感はできないらしい。今この瞬間も、心の中では自分は人間らしくないのだと自嘲しているのかもしれない。そう気づいて、私は自分の発言を少し後悔した。
 同じ空を見ていて、この人はどんな思いを胸に抱えているのだろう。どこまでも進むしかない先行きへの不安か。それともそれを超える意志だろうか。
 どちらにしろ、今の自分に罹る何とも言えない苦しさは、恵まれているという証なのだと強く感じる。
 ――たとえその相手が自分でなくともいい。ルカが心から安らげる場所を与えてくれる人がいつか現れますように。
 心からそう願った。