ナマエ嬢〜。と間延びした声と共に、顔をにやつかせたパイソンが近寄ってきた。武器の手入れをしていた私は、一瞥しただけで手元に視線を戻す。

「そうむっつりすんなよ。聞いてきてやったぜ、ルカの色事話」
「よく言うよ、自分が知りたかっただけのくせに」

 愉しげに話しかけてくるパイソンを無視して膝の上に置いたそれを磨く作業を再開したが、最早そこに心はない。装った表面とは裏腹に、私の内心は彼が次に紡ぐ言葉を今や今やと待っている。
 パイソンは私の正面にあぐらをかくと、言葉を続けた。

「なんか、故郷に親しい女はいるみたいだけど。特別な感情もないし、そもそもそういう気持ちがわかんないんだってさ」
「……へぇ」

 興味なさげに言ってみる。しかし、目ざといこの男にはきっと察せられているのだろう。それがひどく恥ずかしい。

「まぁ、現時点じゃ望みなしだね。可哀想に」
「そんなの元々わかってるよ」

 大げさに溜息をつきながら、やれやれという姿勢をとってみせる。私の手は研磨用の布を持ったまますでに止まっていた。
 それきり沈黙が流れ始める。パイソンが話さなければ、私たちの間には会話など生まれない。
 何もせず向かい合っているという状況が無性に居たたまれなく、何か喋ってよ、と言いかけたとき、彼が口を開いた。

「俺にしとけばいいのに」
「…………そういうとこ、ほんと嫌い」

 うわー、おっかないねぇ。
 それだけ言い残して、パイソンはさっさと何処かに消えてしまった。残される私の気も知らずに。いや、知っているからこそだろうか。