▼テイクアウト

 池袋にある、とあるファーストフード店で噂になっている客がいた。その客は池袋で喧嘩人形と呼ばれる男なのだが、喧嘩人形が来たと噂になっているのではない。決まった日の決まった時間に不思議な注文をしてくるのだ。

「……バーガーのセットとスマイルください」
「ありがとうございます。横にずれてお待ちください」

 毎度、欠かさずスマイルを注文するのだ。
 初めてこの男からスマイルを注文されたのが私だった。その時、私がスマイルを提供して以来、スマイルを注文するようになったのだ。

――何故だッ!?

 そんな疑問を持ちながら今まで接客をしてきたんだが…。
 初めは私も仕事としてスマイルを提供していたのだが、彼の姿を見るたびに従業員としてではなく、一人の人間としてスマイルを提供するようになっていた。それに気がついたのは最近のことだ。

「いらっしゃいませー!」

 あぁ。やっぱり彼は今日も来た。

「てりやきバーガーのセット…飲み物はお茶で」
「か、かしこりました」

 珍しいこともあるもんだ。今日はスマイルを注文しないようだ。彼は静かにてりやきバーガーの到着を待ってる。

「お待たせしました。てりやきバーガーのセットです」
「ありがとう」

 彼はてりやきバーガーを自分の席に運び、黙々と食べている。

「今日はスマイルの注文しなかったね」

 バイトの友人が話しかけてくる。

「そんな悲しい顔しないでよ」
「悲しい顔?」
「うん、残念そうな顔してるよ。」

 そういい折原くんは、私の頭を撫でた。

「ありがと、ごめんね」

 折原くんは、きっと私が最近気がついたこの気持ちのことを、前々から気付いていたのだろう。毎回、彼が来ると、私をレジに向かわせていたのだ。
 しばらくすると、てりやきバーガーを食べ終わった彼が、もう一度オーダーに来た。

「ご注文はお決まりですか?」
「も、持ち帰りで、ス……」

 パシャッ――

「ち、ちょっと折原さん、何してるんですか!お客様ですよ」

 折原さんがクスクスと笑いながら、彼の写真を撮っている。

「大丈夫、シズちゃんは友達だから」
「えっ、そうなんですか?」
「え。あ、まぁ…」

 そういう彼の眉間にはしわが寄っている。知り合いだが、あまり仲は良くないのだろう。あくまで私の推測なのだが…。

「シズちゃん、早く注文しなよ。お客さんが並んでるんだから」

 折原さんが急かすと、彼は眼をそらして注文をしてきた。

「持ち帰りで、スマイル…ください……」
「ス、スマイルをお持ち帰り…ですか?」

 私の笑顔は持ち帰れないけど…。え?どういうことだ…?
 私がフリーズしていると、耳元が折原さんが話す。

「なまえちゃんが嫌じゃないなら、持ち帰らせてあげなよ」

 バイトも、もう終わる時間だ。このまま私を連れていきたいということなのだろうか。もしもそうならば、それはすごく嬉しい。

「えっと…あと少しでバイトも終わるので、それまでお待ちいただけるなら…」
「なら、向こうの席で待ってます。」

 それからというもの、私はバイトどころではなくなっていた。レジに立てば彼の姿が目に入り、慌ててオーダーミスをしたり…。そんな状態でのバイトも何とか終わり、帰り仕度をして、彼の元へ向かった。

「お待たせしました!」
「あぁ。お腹すいてないか?」

 ぐぅーっと、私のお腹が鳴る。さっきまではお腹がすいているとか、そういうことは考えていなかったので全く気が付かなかったが、今ものすごくお腹がすいている。
 お腹が鳴った恥ずかしさで笑うと。彼は私の手を握りご飯を食べに行こうと寿司屋に連れてきてくれた。

「あの、お寿司なんて高いもの…」
「いいんだよ」

 手前に喜んでほしいんだ、と彼は言う。
 何だが、このような行為を向けられるのは初めてで、何だが照れくさい。

「あ、そういえば名前…教えてくれませんか?」

 ふいに、まだ彼の名前を知らないことに気が付き、彼に尋ねる。

「静雄、平和島静雄だ」
「平和島さんですね」
「静雄でいい」
「静雄さんですね。よろしくお願いします。私は#名字#なまえです。」

 よろしく、と改めて挨拶を交わす。

「さぁ、好きなだけ食っていいぞ」

 お礼を言い、静雄さんの言葉に甘えて寿司を食べる。
 二人で会話を楽しみつつ、寿司を食べる。ここのお寿司、とっても美味です。


「そういえばなまえって俺のこと知ってるか?」
「んーと…喧嘩人形って呼ばれていることですか?」

 それくらいしか聞かれる心当たりがなかったので、それについてか尋ねてみた。あながち間違っていなかったようで、静雄さんは知っていたのか…と苦笑いをしている。

「怖くはないのか?」
「はい、怖くないみたいです」

 初めて、喧嘩人形と聞いたときは物騒な呼び名だし、怖いと思った。でもいつもスマイルを買いに来る姿を見ていると、どうも怖い人には見えなかった。一度、町で喧嘩をしているという噂を聞いて野次馬として見にいったことがあるのだが、どうも怖いという気持ちよりも、かっこいい気持ちの方が強かったのだ。
 きっとその頃には、静雄さんのことを好きになっていたんだと思う。

「好きだから…ですかね?むしろかっこいいと思います」
「えっ、好き…?」
「迷惑でしたらごめんなさい」
「いや…嬉しい。俺も好きだからスマイルを持ち帰りたいと思ってたんだ」
「ありがとうございます。スマイルを買ったんですから、ちゃんと最後まで責任とって下さいね?」




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