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―― 放課後。

 部活動がある生徒以外は、ほとんどが帰っているので校舎内は静まり返っている。私は部活動もないが帰路にはつかず、導かれるようにある場所へ向かっている。

 そんな中、ピアノが旋律を奏でだす。ここ最近、私が毎日聞いているメロディー。
 私の大好きなこのメロディーには、私の子供の頃からの思い出がたくさん詰まっている。大好きだった男の子との約束の曲――。





 小さい頃ピアノの発表会に出ることが決まった私は、発表会当日まで必死に練習してきた。

 そしてあっという間に時は過ぎ、ついに発表会当日になった。
 初めての発表会、知らない人だらけの会場、緊張で押し潰されそうだった。
 控え室で、怯える私に声をかけてくれたのが、その男の子だった。


「この曲、知っていますか?」

 そう言い、近くにあるピアノで弾いてくれた曲は、私が初めておばあちゃんに教えてもらった大好きな曲だった。
 知らないものだらけの環境で、唯一知っているもの。

「知ってる!おばあちゃんが教えてくれた!」
「じゃあ僕と連弾しませんか?」

 私は嬉しくなって、大きく頷いた。連弾をしながら二人でいろいろなことを話したのだが、子供の頃だったせいか、ほとんど覚えていない。
 ただ覚えているのは、凄い大人っぽいのに私と同い年だったこと、ものすごく優しくてきれいで女の子みたいな顔をしていたこと。彼が弾いてくれた曲は、私が大好きな曲なのと同時に彼の大好きな曲であること。それくらいしか覚えていない。
 いや、もう一つ覚えていることがある。彼とした約束。と言っても、端から見ればたいした約束じゃないかもしれない。だけど、私にとってはすごく大事な約束。

―― また連弾をしましょう。

 その約束があったから、ピアノをやめてしまった今でも約束の曲だけは弾けるようにしてある。


 今この曲を弾いているのは、青空くんだ。あまり話したことはないの隣のクラスの男の子。なんとなくだが、子供の頃会った男の子と雰囲気が似ていて、ずっと気になっている。

「話かけてみようかな…。」
「誰に、ですか?」

 唐突に後ろから声が降ってくる。振り返ってみると、つい最近まで考えていた青空くんが立っていた。ピアノの音もいつのまにか止まっていたようだ。

「あ、えと、あの、青空くんに聞きたいことがあって…。」
「子供の頃ピアノの発表会で、一緒に連弾したことがあるかどうか、ですか?」

 何故私が考えていたことが分かったのだろうか。仮にあの男の子が青空くんだとしても、今の私が考えていることが分かるのは説明ができない。

「不思議そうな顔をしていますね」

 青空くんは優しい笑みを浮かべ、こちらを見ている。どういうこと?と、私が尋ねると、青空くんはそうですね、と話しはじめた。

「とりあえず、子供の頃なまえさんと連弾をしたのは僕です。」

 いきなり名前で呼ばれて少しときめいたが、それよりもあの男の子に再開できたことが一番嬉しくて、私は笑みをこぼす。あの青空くんも、私につられてか微笑んでくれた。

 青空くん曰く、彼も子供の頃した約束と私の名前を覚えていてくれたらしく、もしかしてと思い毎日決まった時間にピアノを弾いていたらしい。それで私が何かに導かれたかのように、毎日近くの教室から聴いていたので確信して話しかけてくれたようだ。

「再会できて嬉しいです。」
「わ、私もっ!ずっと好きだったから…!」

 しまった、と後悔しても今更なんだろう。つい、ずっと大事にしてきた好きという気持ちを伝えてしまった…。
 内心で私が焦っているのに対し、青空くんは何食わぬ顔をしてこちらを見ている。ひょっとすると好きをラブの好きではなく、ライクの好きと思っているのかもしれない。

「僕もあなたのことが好きですよ。」

―― それはどういう意味で?

 つい、聞き返してしまう。
 これでは、私の好きがラブであることをばらしているようなものではないか。恥ずかしくて、堪らない。切実に、穴があったら即座に入りたい気持ちでいっぱいだ。

「それは……、ご想像にお任せしますよ。」
「まあ今言えることは、僕が言った好きと、なまえさんが言った好きが同じ意味ということですかね?」



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