心配事


 お母さん。ねぇ、お母さん。
 いつからあなたはお母さんになってしまったんだい?

 私の記憶が間違っていなければあの頃は…





「しゅずやー!」
「しゅずやじゃなくて、錫也ね?」
「わかったよ、しゅずやー」

 そう、それは私がまだ錫也のことをしゅずやと呼んでいた頃のことだ。
 その頃は、私の世界には家族と錫也くらいしかいなくて。

 私よりも幾つか年が上だった錫也は、毎日のように私と遊んでくれていた。
 私はいつも遊んでくれる錫也が好きだし、錫也も私の事を妹のように可愛がってくれた。

「しゅずや、すきだおー」
「うん、俺もだよ。」

 今思えば冗談だったのかもしれないが、何とも言えないラブラブ度ではないだろうか。
 そう。ラブラブだったのだ。かつての私は錫也に本気で恋をしていた。彼を男の子としか見れない時期があったのだ。

 それが今では…



「お母さん、お腹すいたよー」
「ちょっと待って。もうすぐで出来上がるから」

 素敵に微笑みながらおにぎりを握っているのが、さっきの男の子だとは誰も思うまい。私だって、こんなことになるとは思ってもいなかった。

「はい、出来たよ」

 ああ、今日もいい笑顔で。いつもこの笑顔が私を癒してくれる。(お母さん的な意味で!)

いつの間にか…

「……ただのお母さんになってしまった」
「ん?なまえ、今なんか言った?」
「いいえ、美味しいご飯をありがとうございます。大好きです、愛してます」
「うん、いくらなまえだからと言って、俺も男だからそういうこと言うのはやめようか」

 お、お母さん。君は今、お父さんになろうとしてるんだね。感動したよ!っていうことは、これで異性と恋ができるよ!(今までの錫也は女の子だよね)(お母さん過ぎるよね)

「なまえさ、失礼なこと考えてたよね」

「…え?」
「うん、ばればれすぎだね」
「今ならまだ許してあげるよ。言ってごらん?」


 お母さん。ねぇ、お母さん。
 目だけが不自然だよ?笑ってないよ?顔だけ笑ったふりはだめだよ?

「お母さんがお父さんに…なる」
「誰のこと」
「しゅずや。」
「うん、錫也ね」
「すんまそん。」
「すみません、ね」
「ごめんよう」
「ごめんなさい、ね」
「ゲラゲラ」
「そこ笑う所じゃない…うん、もういいや」

(ゲラゲラって、笑ってるうちは彼氏出来ないだろうから、心配しなくて大丈夫そうだね。)


「…やっぱ好きだなあ」

 錫也のこと。



いらぬ心配




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