「で、結果は?」
日向の問いに、火神は口を一文字に結んだ。
「…負けたのか」
さらに火神は、口をへの字に曲げる。
「勢い込んで挑んでいって、負けたのか」
「うっせー!…です」
日向は声をあげて笑って、火神の背中を叩いた。
「ま、仕方ねーよ。相手が悪いって」
「ぜってー次は勝つ!」
「若いねぇ」
ひとしきり笑った日向は、笑顔を引っ込めて火神を見据えた。
「打倒黄瀬もいいけど、明日は頼むぜ」
「うす!」
明日はインターハイ一回戦だ。
夢の大舞台への挑戦が、始まる。


公式戦デビューだ。
そう考えたら心臓は喜び勇み、一晩中大騒ぎだった。
火神が寝付いたときには空は白みはじめ、起きたときには集合時間を過ぎていた。
「…やべ」
慌てて起きるも、幸い試合まではまだ時間がある。最後の調整のため、早めの集合となっていたことが、功を奏した。
とりあえず相田に報告しようと携帯を手にした途端、相手の方から着信が入った。
「うわ…」
怒鳴り声覚悟で通話ボタンを押す。しかし聞こえてきたのは、別人かと疑うような弱りきった声だった。
「どうしよう、火神くん…」
泣いてるんじゃないかと思うほど、声が潤んでいる。遅刻以上の危機感に、火神の手は汗ばんだ。
「なんかあったんすか?」
「2年生が全滅しちゃった…」
「…は?」
予測の斜め上をいく最悪の事態に、火神は携帯を取り落としそうになった。
相田曰く、時間通りに集まった2年生は、予定通り体育館にて最後の調整を行っていた。インターハイに挑むレギュラーメンバーを景気付けるために相田は飲み物を作って渡した。これが、間違いだった。
「それを飲んだみんながバタバタと倒れちゃって…試合までに復活しそうにないの…」
「…なんつーことを…!」
こんな。こんな形で夢への挑戦は潰えるのか。
火神は携帯を握る手に力を込めた。
諦められるはずが、なかった。
「1年は?」
「…3人は飲む前だったから無事だけど…」
降旗、河原、福田は無事らしい。幸運にも寝坊して命を拾った火神も、試合に出られる。
あと一人。あと一人いれば良い。
「学校で待っててくれ…ださい」
「え?ちょっと火神く…!」
最後まで聞かずに強引に通話を切り、火神は駆け出した。


バスケは、好き。多分それは、一生変わらない。
澄んだ朝の空気に響くドリブル音に、黄瀬は口元を綻ばせた。
一人でもバスケはできる。今の自分には、それだけで良い。
両手でボールを持って、ゴールを見る。静かな集中は、大声によって乱された。
「いた!」
びくりと震えた手からボールが落ちる。騒がしい乱入者は、問答無用で空になった手を引っ張った。
「ちょっとなに?なんなんスか!」
「いいから来い!」
取られた手を振りほどくこともできないまま、引き摺られるように彼と走り出す。
コートの外の世界は眩しくて。黄瀬は、目を細めた。


2013/2/21

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