試合を翌日に控え、誠凛バスケ部は最後のミーティングを行っていた。
「―――作戦と諸注意はこんなものかしらね。あ、黒子さん」
不意に話を振られ、黒子は書いていたノートから顔を上げた。
「明日なんだけど、レモンのはちみつ漬けを作ってきてもらえるかしら?」
途端に部員たちから歓声があがった。
ごろんごろんから、あのごろんごろんから解放される。喜びに咽び泣く者すら現れて、相田が怒号を飛ばそうとしたその時、黄瀬がすっと手を挙げた。
「なに?黄瀬くん」
「黒子っちが作るなら、俺も作るっス」
「意味分かんないけどまぁ良し。お願いするわ」
「そして俺が作るなら、火神っちも作るっス」
「なんでだよ!」


試合当日。ハーフタイム中の控え室では、「疲労回復のための栄養補給」という名のはちみつレモン披露会が行われていた。
「じゃあまず、火神」
「…うす」
キャプテンの指示に、火神はタッパーを取り出す。蓋を開けると、面々からは感嘆の息が漏れた。
綺麗に切り揃えられたレモンが、とろりとはちみつに漬かっている。文句のつけようもない、それは完璧なはちみつレモンだった。
「さすがだな。じゃあ次、黒子」
「はい」
同様に、黒子がタッパーを持つ。蓋を開ければ、部屋は和やかな空気で満たされた。
火神ほど洗練されたものではない。レモンの切り口はがたがただし、厚さもまちまちだ。けれど一生懸命作ったことは伝わる、愛情に溢れたはちみつレモンだった。
「いいよいいよ。切ってくれるだけで十分だ」
菩薩のような笑顔で頷く彼らに、相田は不満の声をあげた。
「…なんか皆、黒子さんには甘くない?」
「そ…んなことねーって!はい最後、黄瀬!」
「はいっス!」
意気揚々と、黄瀬は己のタッパーを開けた。中を覗いたメンバーたちは、言葉を失って固まる。そこには、はちみつに漬かる龍がいた。もちろん、本物の龍ではない。レモンを切って作られた、お手製の龍だ。
「…なにこれ」
その場にいる全員の総意ともいえる問いに、黄瀬は満面の笑みで答えた。
「飾り切りっス!」
「馬鹿かお前。馬鹿だろお前」


fin 2013/12/8

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