それは黄瀬が一軍に上がったばかりのこと。帝光中の部内で行われた練習試合は、黄瀬の独壇場と化していた。
一人で取って、抜いて、点を取る。点差は縮むことなく開き続ける。
相手にならない。黄瀬が20点目を決めたとき、選手交代の合図があった。
「黄瀬、交代だ」
「は?俺っスか!?」
腕を伸ばした青峰は、黄瀬にきつい眼光を寄越す。
「いいからさっさと下がれ」
解せない思いを抱えながら、黄瀬は渋々ベンチに下がる。と同時に、背後から容赦ない一撃がきた。
「いっ…た!何!?」
後ろを向けば、そこには自分以上に不満を全開に出した教育係がいた。
「なにしてるんですか、君は」
真っ直ぐな視線と共に、黒子は強く、黄瀬に言い聞かせた。
「バスケは一人でやるものじゃない」


分かっていたはずだった。守っていたつもりだった。黒子は何度も教えてくれたから。
バスケはチームでやるものだ。
しかし勝利を前にチームを捨てた帝光中を否定して、自分たちは道を違った。仲間を信頼し合えない彼らを嫌悪した。
それなのに、黒子と自分は互いを信頼していなかった。離れる恐怖に互いを疑い、「好き」という気持ちすら受け入れることが出来ずにいた。
どうしようもない自分たちを救ってくれたのは、火神と誠凛の皆だった。
彼らは信じてくれた。
あのとき失ったものは、ここにある。ずっと求めていたものは、このチームにある。
「ナイスパス、黄瀬」
日向が黄瀬の背を叩く。
「このまま追い上げんぞ」
火神が拳を差し出す。
勝ちたいと、思った。帝光中にいた頃よりずっと。今、誠凛というこのチームで、勝ちたい。
黄瀬は火神の拳に己のそれを重ねた。
残り時間は少ない。一瞬たりとも気は抜けない。自分の仕事は青峰を止めること。持ち得る知識も経験も奇跡も全部使って、全力で立ち向かう。
青峰を無効化することで、誠凛はじわじわと点差を詰めた。残り1分を切り、1点差になる。これが最後のワンプレイになるだろう。
ボールを持った黄瀬に対して、パスを警戒した青峰は少し離れたところに立った。パスか、1on1か。互いを知り尽くしているからこそ、読み合いなんて意味がない。そんなこと、関係ないのだ。
二人で青峰を倒すと決めたときから、何度も何度も練習してきた。今相手がどこにいるかなんて、手に取るように分かる。
だからこのパスは、繋がる。
「火神!」
ボールは確かに、相棒の手の中に収まった。そのまま火神は真っ直ぐにゴールへと向かう。
止めにかかる桐皇メンバーたちを置き去りにして、火神は高く、翔んだ。その背に、力強い光を見る。
彼が教えてくれた世界は、こんなにも眩しい。
黄瀬が目を眇めたとき、試合終了のブザーが鳴った。


2013/10/10

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