晴れた空に映える、オレンジ色のボールを見ていた。
黄瀬が放つボールは、滑らかな動きでゴールに収まる。繰り返し、繰り返し。それは水の流れのように淀みなく。
「ねぇ、黒子っち」
不意に黄瀬が意識をこちらに向ける。
「俺は…青峰っちに勝てると思う?」
目はゴールを捉えたまま、黄瀬が問う。黒子は、答えられなかった。
「きっと勝てる」も「多分負ける」も彼の糧にはならない。ならばあげられるものは、沈黙しかなかった。
答えを待つことなく、黄瀬はまたシュートを放つ。青空を裂いたボールはゴールリングに当たり、今日初めて弾かれた。
ストリートコートの出入口付近まで転がったボールは、黄瀬が拾いに行く前に他人の手の中に収まる。
乱入者の姿を認めた黄瀬と黒子は、驚愕のままに目を瞠った。
「勝てるかどうか、試してみるか?」
ボールを指先で弄び、不敵に笑う。
「黄瀬」
記憶のまま、あの頃の輝きのまま、青峰がそこに立っていた。


もしどちらかを選ばなくてはいけないのだとしたら、黒子の答えは「多分負ける」だった。けれど、ここまでだなんて想像もしていなかった。
フェイクにかかった訳ではない。それなのに黄瀬は青峰の動きに全く反応出来ていなかった。あっさりとクロスオーバーで黄瀬を抜き去った青峰は、悠々とゴールネットを揺らす。
二人の1on1は中学時代に何度も見てきた。あの頃はここまでの差はついていなかったはずだ。
青峰は高校に入ってからも練習を拒否していると聞く。それでも天才の進化は止まらない。
黄瀬では青峰を、止められない。
「こんなもんなのか、お前」
強引にゴールを決めた青峰が、地に崩れ落ちた黄瀬を見下ろす。
「もっと楽しませてくれると思ってたが、買いかぶりだったみたいだな」
力の無い敗者に青峰が向けるものは、失望と苛立ちだった。
「つまらねぇ」
たぎる感情を吐き捨てた青峰は、上着を掴んでコートを後にする。
黒子はきゅっと唇を結ぶと、青峰の背を追った。
「青峰くん!」
何か、言わなくてはいけない気がした。それは批難か、もっと他の言葉か。
黒子が迷っている間に青峰は立ち止まり、振り返った。
「テツ」
群青の眼光は鋭く黒子を貫く。
「なんで黄瀬を連れてきた?」
「え…?」
「黄瀬にあんなバスケをさせてるのはお前だろ」
目は、声は、容赦なく黒子を責める。
「お前、黄瀬からバスケを奪いてぇの?」
「違…っ!」
否定しようとした声が詰まる。
黄瀬が好きで、黄瀬のバスケが好きで、同じ学校に来た。けれどそれは黒子の願いだ。
分かっていたはずだ。本当は、その手を取るべきではなかった。黄瀬のことを、思うのならば。
「お前が黄瀬のためにできることは、傍にいることじゃねぇよ」
聞きたくない。言わないで。
「テツ」
逃げ続けた黒子を、青峰は断罪する。
「黄瀬の前から、消えろ」


2013/4/15

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