学生の本分が勉強だというのなら、火神は学生失格だ。
HR終了の合図は、一日のメインイベント開始の合図だった。
「部活行くぞ」
声をかけるも、後ろの席の彼は根を張ったかのように椅子に座ったまま動かない。
「黄瀬?」
「…行かない」
「はあ?」
なにを言い出すのか。
火神が変な顔をすると、もう一つ後ろの席から援護があった。
「どうしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」
気遣わしげに傍に寄る黒子に、黄瀬は俯く。
「…悪くない、けど…」
けど、なんだと言うのか。
言葉を途切らせた黄瀬はそのまま口を閉ざす。
行かない、と拒否する様は、今までのように突き放すのとは違った。口を曲げる姿はまるで、拗ねる子供だ。
「我が儘言ってんじゃねぇよ」
火神が問答無用で腕を掴めば、
「理由もなく休んじゃ駄目ですよ」
黒子が逆の手を取る。
半ば引き摺られるようにして、黄瀬は部活へと連行された。


具合が悪い訳ではない。しかし、調子は悪かった。
シュートは外れ、パスは取られ、相手のシュートは止められない。攻守は共に、精彩を欠いていた。
「…彼、なにかあったの?」
相田に問われても、黒子の中に答えはなかった。
怪我や病気の類ではない。なら、精神的なものだろうか。
極端な右肩下がりで調子を落とす黄瀬に、黒子は首を捻った。
「…これじゃあ次は厳しいかもしれない」
苦々しい独白に、黒子は相田を見る。相田は数回手を打って練習を中断させると、部員たちを集合させた。
「次の対戦相手が決まったわ」
ざわつく部員たちに向けられた相田の表情は、見たことがないほどに険しかった。
「相手は、桐皇学園」
瞬間、弾かれたように黄瀬と黒子が顔を上げる。
「やっぱり、二人は知っているみたいね」
キセキの世代、エースの名前が呼ばれる。かつては絶対的な信頼を寄せていた彼が、今は敵として立ち塞がる。
―――青峰くん…。
沈む気持ちと共に視線を下げれば、固く握られた黄瀬の手が見えた。


2013/4/4

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