相性は、むしろ良いのだと思う。
手元にどんぴしゃなパスを受けて、火神はしみじみと実感した。
黒子の一喝で、黄瀬との間にあった壁は一気に数枚吹っ飛んだ。朝、登校するなり後ろから届いた「おはよ」に、柄にもなく火神の胸はほっこりした。
教室での会話は増え、同じくしてバスケでのパスも増えた。
「良いコンビじゃないか」
伊月が言うように、火神と黄瀬はセット扱いされるようになった。それが一番勝利に違いのだ。誠凛バスケ部が描くバスケのスタイルは、段々と形になってきた。
休憩、の合図に黄瀬は真っ直ぐに黒子の元へ行く。黒子は当たり前みたいに黄瀬にタオルと労いの言葉を渡す。
まだ知り合って間もないのだから当然なのだけれど、自分は二人についてほとんど何も知らない。
黒子が取り去ったものは、自分に重なる『青峰』の影だという。幻にまで敵意を向けずにはいられないほどの、何があったのだろうか。
黄瀬が話しかけると黒子は微笑む。寄り添う姿は自然で、だからこそ火神は二人は恋人同士だと思っていた。
黄瀬の気持ちは確かに、黒子に向いている。
―――黒子は、黄瀬をどう思っているのだろうか。


「好きですよ」
悶々と悩むのは性に合わない。気になることがあるのなら、聞く。思考と行動が直結している火神は、部活の片付けをしている黒子に黄瀬へ向ける感情を尋ねた。
なんとも言えない顔をしている火神のために、黒子は付け足す。
「恋愛対象として、好きです」
両想いだ。
火神は急に、自分の行動が愚かで無意味なものに思えてきた。
「なんで付き合わねーの?」
至極当然な問いを投げ掛ければ、黒子は顔を曇らせる。
「…黄瀬くんは、私を信じてはくれないんです」
黒子はぽつりぽつりと、抱える苦しみを吐き出した。
「火神くんが前に言っていた、『全て捨てるから傍にいて欲しい』を一番脅迫だと思っているのは、黄瀬くんなんです」
だから、信じないのだと言う。
黒子がいくら好きだと言ったところで、黄瀬はそれを『言わせている』と捉えてしまう。
確かに同じ方向を向いているはずの二人の想いは決して重なることはなく、長い長い平行線の先は見えないほどに遠かった。
「それで、良いのかよ…」
良いわけないと分かっていて、それでも言わずにはいられなかった。こんなすれ違い、火神の方がやりきれない。
「待ちますよ」
黒子は静かに強く、言い切った。
「黄瀬くんはまだ気持ちの整理がつかないだけなんです。だから、待ちます」
彼は自分が泣き止むまで待っていてくれたから。
そう言って笑った黒子は、綺麗だった。


2013/4/1

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