整列するなり相手チームがざわつく。そんな、まさか。茫然とした呟きが耳に入る。
彼らが見つめる先にいる黄瀬は、何も聞こえていないかのようにコートに目を落とした。
「試合開始!」
ジャンプボールは火神が飛んだ。高さで圧勝し、弾いたボールは黄瀬の手に収まる。相手チームに緊張が走るのが分かった。
しかし黄瀬は、拍子抜けするくらいにあっさりと河原にボールを送った。河原から火神へとパスが通り、火神がゴールを決める。先制点を取ったのは、誠凛だった。
「…よし」
やれる。相手が黄瀬に気をとられているうちに、少しでも点差をつけなければ。
攻守共に火神は走り、一人で点を取り続けた。自然と、マークは唯一のスコアラーに集中する。
試合開始から警戒されていた黄瀬のプレイには、脅威もやる気も感じられなかった。フリーの時でさえ、彼はパスを出す。自分で切り込むことは決してなかった。
―――上等だ。
火神は唇を歪めた。
自分だって、同じチームなだけの他人に命運を託すつもりはない。彼の力を借りなくても戦える。
しかし、誠凛リードで終わらせたのは第1Qだけだった。徐々に点差は縮まり、第2Qが終わる頃には逆転を許してしまった。
火神についたマークは3人。さすがにこれでは動けない。
第3Qは一方的な展開となった。着々と加点を繰り返す相手に対し、誠凛のスコアは完全に沈黙してしまった。
黄瀬の目にゴールは無い。他の一年たちも頑張ってくれてはいるのだが、シュートは全てリングに弾かれる。いきなりの大舞台に相当のプレッシャーがあるのだろう。無理もない。
だから火神が状況を打破しなければいけないのに、どうすることも出来なかった。
15点という大差をつけられ、第3Qが終わった。


「火神くん、大丈夫…なわけないか」
ベンチに戻ってきた火神の様子に、相田は唇を噛んだ。
攻守共に全力で走っていた火神は体力の消耗が著しい。たった2分のインターバルでは、微々たる回復しか望めないだろう。
「火神くんの負担を減らしてあげて」
声をかけるも、経験値不足の一年たちはすっかりしょぼくれている。すでに敗戦オーラが立ち込めていた。
「大丈夫!」
相田は彼らの背中を叩いた。
「まだ試合は終わってない。それに、連絡が入ったから」
目を丸くする彼らに、相田は笑ってみせた。
「2年生が復活したそうよ。もうすぐここに来てくれる」
おお、と小さな歓声が上がる。
だが、安心するにはまだまだ早い。相田は朗報に浮き足立つ彼らを戒めた。
「2年生が間に合ったとしても、これ以上の点差がつけば追い付けなくなるわ。厳しいだろうけど、なんとか食らいついて」
火神くん。呼べば体力をかき集めていた彼が顔を上げる。その目に諦めは微塵もない。
「あと少し、頑張って」
「…うす」
インターバル終了の合図が鳴る。
立ち上がった火神は、まだ動かない黄瀬に気が付いて振り返った。
「…黄瀬?」
会話に参加するでもなく、彼がずっと見ていたものはスコアボードだった。
呼び掛けに反応してこちらを向いた金色に、火神は自分と同じ感情を見た。


2013/2/27

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