03 ボンボン



空き地は皆の空き地であって、バスケマンの空き地ではない。
その日、空き地には野球少年が集まっていた。
「…どうする?」
「どうするもこうするも…これじゃバスケはできねぇだろ」
諦める以外の選択肢はなさそうだ。火神と青峰がしぶしぶ踵を返したとき、意外なところから助け船が出た。
「バスケなら、うちの庭でやれば良いのだよ」
言って、緑間は眼鏡のブリッジを押し上げる。
「お前ん家、庭なんてあったっけ?」
「買ったのだよ」
「マジかよ、スゲーな!」
「おは朝のラッキーアイテムが、庭付き一戸建てだったのだよ」
「おは朝はどんだけ日本経済を回す気だよ!」


「俺も、庭付き一戸建てが欲しい」
帰宅するなり壮大な夢を口にする火神を横目で見て、黒子はバニラシェイクのストローから口を離した。
「買えば良いじゃないですか。30年ローンで」
「ローン組めねぇよ!」
自分も緑間のように庭でバスケが出来たのなら、きっともっと強くなれるはずだ。
しかしいかんせん火神はマンション暮らしだ。庭付き一戸建てには程遠い。魔法のような道具でもなければ。
「頼む、クロえもん」
「…仕方ないですね」
重い腰を上げた黒子は火神家の棚を漁り、一抱えほどの箱を持ってきた。
「タランタッタラ〜『日曜大工セット』」
「それで一軒家は建てられねぇよ!」
どれだけの日曜日を犠牲にさせる気なのか。戦く火神を、黒子は一蹴する。
「そんなことは分かってますよ、単細胞が。ほら、緑間くんのところへ行きますよ」
「あ、ああ…」
なんだかよく分からないまま、火神はすたすたと歩み去る黒子の後を追った。


黒子と共に、さっきまで遊んでいた緑間の家に戻る。庭のバスケットゴールを見ると、否応なしに心が踊った。
ゴールの傍でうきうきしている火神を他所に、黒子は家から出てきた緑間と何事かの交渉を始める。話し合いの結論が出るまでに、さほど時間はかからなかった。
「…分かった。クロえもんの頼みなら、良いのだよ」
「ありがとうございます」
緑間に礼をすると、黒子は火神の元に来た。
「良かったですね、火神くん。さあどうぞ」
黒子が指し示す先には、庭に置かれたいびつな箱(?)があった。
傾いた赤い屋根。一方だけ空いた面の上には『たいが』と書かれた板が貼られている。
「日曜大工セットで作りました」
「犬小屋じゃねぇか」
「犬小屋じゃありません。ご所望の庭付き一戸建てです」
「むしろ庭しかねぇよ!」
「火神くん、ハウス」
「やっぱ犬小屋じゃねぇか!」

2013/8/8

戻る 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -