キンセンカの涙 | ナノ


4:くしゃみです

入学式が終わり、1学年は教室へ向かいだす。

大勢の生徒が一斉に移動するため、クラスごとの移動となった。
私は2組。もちろん隣の黒子も2組だ。


体育館から教室まで移動する際、様々な道を通ったが、
さすがマンモス校とも言うべきか。驚くほど広い。前世で私が通っていた中学校の軽く倍はあるだろう。
大学ほど…とまではいかないが、それでも十分の広さだ。この学校の予算額を知りたい。


歩き始めて数分、やっと自分のクラスまでたどり着いた。これはしばらく迷子に悩まされるだろう。


名簿順に席に着く。少しだけ後ろの方だ。
他の生徒もまばらまばらに自分の席に座るが…

明らかに、1人、浮いた人。


もう一度言うが、私達は小学校を卒業したばかりのピカピカの中学一年生だ。
平均身長は150cm程度なもので。女子の方が背が高くても何の不思議でもない。むしろ女子の方が高いケースが多い。

そんな私の身長はちょうど150cm。黒子はそれより若干高いだろうか。
そういった少年少女が並ぶ中で、頭一つ、二つ…いや、三つぶんあるかもしれない。

明らかに背か高すぎる人がいる。



一瞬、先生か?先生が生徒の机に座っているのか?とも思ったけれど、ちゃんと学生服を着ている。
皆は一点、その背の高すぎる青年と言ってもいい少年をまじまじと見ていた。

そんな何とも言えない沈黙がクラスに漂った後、ドアがガラリと開き先生が入ってきた。
一瞬、あまりにも目立つ人物を見つけてぎょっとした顔をした後、先生は笑顔に戻り皆にあいさつをする。

「はい、皆さん。初めまして、今年度から1年2組を担当する事になった山村です。よろしくね」


ゆるい先生だ。若くて垢が抜けてない感じから、もしかすると初めて担任を持つのかもしれない。精神年齢では私が勝ってるな。

「ではー、まず最初に自己紹介から始めましょう。じゃー最初に…」


先生はクラスを見渡す。といっても、クラスのど真ん中にいる明らかに目立ちすぎな紫の頭。嫌でも目に入ってくる。


「じゃあ身長の高い彼から自己紹介をお願いしようかな。大丈夫?名前と出身小学校と…あと入りたい部活とかあれば」

「えーめんどくさー」


その言葉に皆がギョッとした。先生に対してなんて口をきいてるんだと驚く。

この年代の子供は皆まだ素直であり、先生達を陰で文句を言い出すのはもう少ししてからだ。それは経験則として解っている。それに、最初の自己紹介となれば、初めて自分をクラスに主張するという大事な場面だ。少なくとも先生に邪険な態度をとる事なんて出来ない。


だというのに、この少年は…


「ま、まあまあ…皆も君が気になっているみたいだしね?先生からもお願いするから」

先生は軽く顔を引きつらせながら言う。いきなり面倒そうな生徒を担任する事になったのか。同情します。

「んーとー、名前は紫原敦ー」

ぶほっと吹き出してしまう。皆が一斉に私を見た。先生も、先ほど自己紹介した本人も私を見る。


「どうかしたか?」

「い、いえ、くしゃみです」

どう聞いてもくしゃみではない。くしゃみではないが、先生は「そうかそうか」と、あえてそこをスルーしてくれた。
空気の読める先生で助かった。まだ背の高い彼は私を怪訝そうな目で見ているけど。


「でー、部活はたぶんバスケー。あ、好きなものはお菓子ー」


紫の彼は、もう終わっていい?と先生に合図を送ると、先生も苦笑いで頷いた。


そこからは先生のランダムで自己紹介をしていく。私の番ではとりあえず無難に終わらせておいた。
皆が『なんであいつさっき笑ったんだろ』みたいな顔をしていたが。

全員が自己紹介し終わると、HRまで20分の長い休み時間に入った。
私は席を立ち、メモ帳とペンをポケットに仕舞いトイレに向かう。別に用を足したいわけではなかった。

頭の中は【紫原敦】の単語でいっぱいいっぱい。
もちろん、『どうしよう、超かっこいい!!!』なんていうお花畑な意味ではなくて。いや、格好良いとは思うけれど。

トイレの一番奥の個室に入り、メモとペンを取り出す。
頭をひねり出しながら思い出す。昔、前世で見ていたあの漫画。


黒:影薄い、イグナイト

火:まゆげ

黄:モデル

緑:眼鏡、なのだよ

青:黒い(物理)

紫:背が高い

赤:オヤコロ


…駄目だ、まともなことが思い出せない。イグナイトってなんだ、技だっけ。
でも、今日でこの中の3人、凄く似たような人を見た。偶然にしては出来すぎている。

もしかしてこれは…俗に言う『異世界にやって来ちゃった』というものだろうか。
様々な作品をネットで通して見た事もあったため、こんな状況に陥るという小説も読んだ事がある。
あのときは、純粋に、面白いなぁ…と確かに思ったけれど。

『うひゃあ、私もトリップしたいなあ!』

と考えた事はなかった。
むしろトリップするなら、ちび○る子ちゃんの世界にトリップしたかった。あのクラスを一度でいいから経験してみたいと何度も…

いや、こんな事を考えている場合ではない。
前世で四大週刊少年誌を毎週購入していた私は、もちろんあのバスケ漫画を知っている。
楽しんで読んでいたのは事実だけれど…なぜあの漫画だったのか分からない。他の作品も同じくらい好きだったのに。


わからない事が多すぎる。



…なぜ、私はこの世界にやってきた?


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