42:リア充
「あー…明日は部活休みか」
いつもの帰り道、私と黒子と青峰の三人で帰る途中の真っ暗な景色。
寒さに震え、マフラーに顔を埋めていると青峰が口を開いた。
「やることねーんだよな。家にいても暇だしよ」
口を開くたびに漏れてくる白い吐息を何となく眺めながら、今度は黒子が口を開いた。
「でも、たまには身体を休めないといけませんよ」
「つってもなー」
ストリート行ってバスケでもするか、なんて青峰はぼやいていた。正真正銘のバスケ馬鹿だ。
「僕は明日、ゆっくり家で過ごします」
青峰を横目で見ながらそう黒子が行った後、今度は私の方に視線を向けた。
「みょうじさんは何か予定ありますか?」
「私はね、ちょっとバイトする予定」
「へえ…バイトですか」
一ヶ月程前に山田さんの代わりでバイトのシフトに入ったティッシュ配り。
自分で働いて得たお金だと、気持ちよく使う事が出来る事に気づき、明日の第二日曜日もバイトをする事にした。
ちなみに山田さんの叔父であるオーナーさんは快く承諾してくれた。
そうやってお互いの明日の予定を話した後、ある事を思い出した。
「そういえば黒子!1組の人に告白されたって本当!?」
「ぶっ!!!ちょ、テツ!なんだよそれ聞いてねえぞ!!」
「何でみょうじさんが知ってるんですか…」
「知ってるも何も、いつものメンバーが言ってたし。黒子の存在を認知出来る女子がいた!って」
いつものメンバーとは、テスト期間などでよく過ごす恋バナ大好きなあの面子だ。
ちなみに紫原敦と付き合ってるだのなんの言ってくるのも、大体があのメンバーの誰かだ。
「まあ…そうですけど」
「おいおいおい、詳しく聞かせろよ」
青峰は興味津々に私と黒子を交互に視線を向ける。こんな所はいかにも中学生らしい。
「別に面白い話ではありませんよ。1組の方にそういった話をされたのは本当です」
「うわー詳しく聞きたい」
「俺も俺も」
いつの間にか歩くのを止め、二人で黒子を立ち塞ぐように構える。黒子は軽くため息を吐いた。
「別にいいじゃないですか。青峰君だって夏の時にわざわざ体育館まで来てくれた女子がいたでしょう」
「あ?…ああ、いや、俺の話はどうでもいいだろ。今の話はお前だお前」
そういえば、そんな事もあったな、なんて軽く思い出しながら再び黒子を見る。
なんとなく難しそうな顔をしていた。
あまり聞かれたくないのかも。
「…まあ、黒子もそう想ってくれる女子がいて良かったね。付き合ったりはしない感じ?」
「お付き合いしますよ」
「だよねー、やっぱり付き合う……え!!!?」
「ちょ、おま!!OKしたのかよ!!」
「はい」
「えええええええ!?」
「…そんな驚かれるような事ですか」
そう言われても無理もない。
まさか黒子に彼女が出来るなんて。誰が想像出来ようか。私には無理だった。
だって、まさか、あの黒子に。彼女が。
「…という事は…いま彼女持ち…?」
「はい。そうですね、彼女持ちです」
「まじかよ、嘘だろ」
青峰は心底複雑そうな表情を浮かべていた。無理もない。
私も未だに状況についていけない状態だった。
「え、なんで?その子の事好きなの?」
「いいえ。初対面の方でしたし、特別な想いがあるわけではありません」
それじゃあなんで。黒子こそ、なんとなく付き合うとか無さそうな感じなのに。
「ちゃんと最初に言いましたよ。貴女の事は何も知りませんからごめんなさい、と。そしたら自分の事を知ってからもう一度考えてほしい、と言われて」
「へえ…」
「相手の方もそれで良いと承諾していますし、別に躊躇する必要はないなと思いましたんで」
そう飄々と言われても、やはり何となくしっくりこない。失礼だけど。
「後は…まあ、僕の方にも色々思う所があったので」
そう言って黒子はチラリとこちらに視線を送る。
その視線の意味が分からず、首を軽く傾げてみたが、黒子は再び青峰の方に顔を向けてしまった。
「そんなわけで、お付き合いをする事になりました」
そう言ってピースをする黒子。顔は相変わらずの無表情だ。
そんな黒子を見て、青峰は大きくため息を漏らす。
「なんつーか、いまいちしっくりこないっていうか…」
「祝ってくださいよ」
「おーおー、何かあったらすぐに報告しろよ」
そう言ってにやりと笑う青峰。完全にあっちの話を期待しているのだろう。
それこそ黒子にはしっくりこない話だと思うけれど。
「そっかー。でもちょっと寂しいな。娘がお嫁に行ってしまう気分」
「いつから僕はみょうじさんの娘になったんですか。せめて息子にしてくださいよ」
「いやいや、黒子は娘だよ。良いお嫁さんになれるよー」
私がふざけてそう言えば、黒子はいつも通り軽くため息を吐いて少しだけ笑った。
「まあいいや。大切にしなよ」
「……」
「…?どうした?」
「…いえ、なんでもないです。みょうじさんに言われなくても大丈夫ですよ」
いつも通り、無表情に戻って黒子は前を向いた。
「そっかー。黒子に先を越されたかー」
「みょうじさんもいるじゃないですか、紫原君が」
「もう私は何も言わないからな」
「は?お前、紫原と付き合ってんの?」
「ほらー、こうなるー!」
軽く黒子を睨みながら、ほぼ慣れてしまった言い訳を青峰に伝えた。
横目でちらりと黒子を見ると、どこか遠くを見ているような表情を浮かべていた。
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