キンセンカの涙 | ナノ


41:観察しないで

「お待たせ致しました。特製ラーメンと高菜ラーメンになります」


意外にも赤司征十郎と会話が弾んだ後、切りの良い時に店員さんがラーメンを持ってきた。

たちまち、美味しそうな匂いが立ち込める。

店員さんが器用にテーブルにどんぶりを置き、伝票を置いてお辞儀をしながら去っていった。


私の近くにあった箸を赤司君に渡し、「いただきます」と口を開いて汁を一口飲む。


「んー!!!美味しい!!」


何故ラーメンってこんなに美味しいのだろう。分からない。
高菜を箸ですくいながら、ちらりと前を見てみると、赤司君は無言でラーメンを啜っていた。

「どうですか」

別に私が作ったわけでもないのに、少し緊張しながら聞いてみる。

「なかなか…美味いな」

「でしょー!」

嬉しくなって、思わず声を上げてしまった。
食事中なのに品がないな、と口を押さえる。


品と言えば、目の前の少年を改めて見てみる。


ラーメンを啜っているのに、なんというか、品を感じるというか。
あまり啜る音もしないし、姿勢が正しい。汁一滴こぼさない。


この人って、欠点が無いなぁ…なんてまじまじと見ていると、私の視線に気づいたのか箸を止めた。


「なんだ、食べたいのか」

「えっ、いいんですか!?」

食べて良いのなら食べさせてください。ここのラーメンはどれも美味しいのだから。

「良いも何も、みょうじが出すんだろ」


別に遠慮する必要は無い、と真顔でラーメンを差し出す。


なんだよ、この人普通にいい人じゃないの!なんて思いながら一口分すくった。
口に含めば、豚骨の良いダシが出ていて凄く美味しい。


「特製ラーメンも凄く美味しいですねー!ありがとうございます」

「いや…」

少し歯切れの悪い返しに、あら?と首を傾げる。
やっぱり、図々しいと思われたのだろうか。


「どうかしました?」

「…女子は気にする方だと思ったから」

「…?何をです」

「一応、俺が箸を付けたものだからな」


聞いてみれば何てない事で。でも、よく考えれば中学生にとっては少し恥ずかしかったのかもしれない。


「ああ…っと、ごめんなさい。違う箸使った方が良かったですよね」

「いや、俺は気にしないからいい」


そう言って、再びラーメンを啜りだす。

高菜ラーメン食べるかと聞いてみたが、普通に断られてしまった。やっぱり恥ずかしかったのかも。


15分もすれば、麺は食べ終えて、汁を残すのみとなった。

「そういえば、赤司君って黒子の隠れた才能とかどうやって見つけたんですか」


なんとなく、気になったため聞いてみる。

普段は彼にバスケ関係の話はちょっと聞きにくかったが、今日のこの流れなら大丈夫かな、なんて思った。

すると案の定、彼は特に表情を変える事なく口を開く。


「そうだな…」


表情は変えずとも、どこにも焦点を合わせず、どこか遠くを眺めるような眼をしていた。


「例えば、人の癖をすぐに見抜く奴がいるだろう」

「まあ…いますね、そんな人」


前世では私の周りにそんな人がいた気がする。


「癖と言っても、手の仕草、目線の配り方、歩き方、口癖など色々ある。そこから、その人物がどのような特徴なのか分かってくる」

「ほお…」

「元々そういった特技はあったが、バスケを始めて更に人を見配るようになった。まあ、それから一瞬で人の性質を見抜けるようになったね」

「はあ…」

「…聞いているか?」

「いや、少し現実離れしているというか…すごいなあと思って」


とりあえず凄い人だってことは分かった。

「…まあ、彼には期待しているよ」

そう言われて。なんだか自分の事みたいに嬉しくなった。早くそれを黒子に言ってほしい。



少し間が空いて、会話の話題を頭の中で探す。

その中で何となく興味がわいて、よせば良いのに聞いてみた。


「あ、じゃあ私がどんな人物なのか分かったりします?」

「みょうじは…」


すぐに答える事なく、なぜかじっと私の目を見てくる。
まるで全てを見抜くような視線に、あらら?と冷や汗を一筋感じた。


「少し、難しいなお前は」

「難しい性格ってことですか」


へへへっと笑ってみても、「違う」と一言。冗談が通じない。


「…俺が言うのもなんだが、お前は中学生らしくない」

「あー…、よく言われます」


なんとなく、(あ、まずいな)と思ってしまう。
聞くんじゃなかった。


「十代前半というのは、誰にでも何かしらの子供らしさを兼ね備えている。けれどみょうじにはそれが殆ど感じられない」

「へ、へー」

「子供らしくない奴というのは、大抵が家庭環境の影響か只本人が無理をしているだけだ。お前はどちらでもない」

「お…おおう」

「発言や行動が子供らしくないわけじゃなく、恐らくお前の思考が子供らしくない。そうだな…所謂【余裕】というものを常に持っているようだな」

「…はあ」

「まるで、一度大人になって子供に戻ったような…そんな感じだな」


もう嫌だ。何なのこの人。もう怖い。やめてくれ。その眼で私を見ないでください。


「…随分と焦っているようだね」

「そうですか?」

へらっと笑っても相手は気にしてないようだ。確かに冷や汗が止まりませんけど。


「みょうじは嘘をつく時、瞬きを2回する。焦っている時は視線を右上に持っていく。気をつけた方が良い」


こわい。もうこの人こわい!!


「なるほど、気をつけます」


頭の中でごちゃごちゃになって、咄嗟にそう言ってみたけど、なに肯定してるんだよと自分に突っ込んだ。



そろそろ出ようか、とあちらから切り出したため、伝票を持ってレジへ向かう。

時計を見ると、針は21時を回っていた。



お店の外へ出れば、随分と冷えた風が吹き込む。もう冬だなぁとなんとなく思っていると、すぐ近くにいかにも高級車のリムジンが停まっていた。

すると中からスーツの人が出てくる。そして何故かこちらに向かってくる。

スーツの人は赤司征十郎に礼をした。もしかしてお迎えとか、そんな感じですか。


「みょうじの家は何処だ」

「南地区の…ここから30分くらいですけど…」

「そうか、送る」


そう言ってスーツの人に目配せする。スーツの人はドアを開けて招き入れようとしていた。


「いや、悪いですよ」


なんとなく、先程の会話で失礼ながらこれ以上同じ空間にいたくないなと思った。

車の中って話題がないとつらそうだし。


「こんな時間に1人で帰ろうとするな。家の人も心配するだろう」

「一人暮らしなんで大丈夫ですって」

「…一人暮らし?」


しまった。

繰り返すが、この歳で一人暮らしなんて異常だ。だからあまり人には言わないようにしているのに。


「…とにかく、送っていくから乗れ」


赤司征十郎は特に追求する事なく、車のドアの前で腕を組んだ。どうやら、私が乗るまでそこを動かないようだ。

仕方ない…と渋々車に乗り込む。スーツの人にすみません、と一言しておいた。
それを見て赤司征十郎も乗り込み、ドアが閉まって発進した。


車の中は驚く程静かで振動がない。


「…もしかしなくても、赤司君ってお金持ちですか」

「俺じゃなくて、俺の家がそれなりに」

「へえ…」



それなりどころか、凄くお金持ちそうだ。
この超ハイスペックな人物に、更にお金もあるときたら。神様は本当に不公平だ。


車の中は特に会話がなく、お互い窓の外を眺めていた。


無事にマンションに到着し、お礼を言う。


「すみません、ありがとうございました」

「いや。それじゃ」


そう言って窓を閉じる。

なんだか、後半はちょっと気まずかったなあ…なんて思っていると、また窓が開いた。

何か忘れ事だろうかと、軽く首を傾げる。


「今日はご馳走になったな」

「…え、いえ!」


赤司征十郎は今度こそ窓を閉じて、車を発進させた。

今日は色々あったなぁ…なんて思いながら、車が見えなくなるまでずっと遠くを眺めていた。

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