キンセンカの涙 | ナノ


24:食べ比べしよう

「おかえり、なまえ」


職員室までノートを届け、2組に戻ってきた。一番仲の良い友人に声をかけられる。



「ただいま。はいこれ、あげる」

「はー?ノートの切れ端とかいらな…って!」



ポケットに乱暴に突っ込んでおいた四つ折りの紙を押し付ける。

彼女が渋々紙を広げ、目を見開いた。




「黄瀬君のサインじゃん!え、なんで!?」

「たまたま会ったからもらってきた」

「何それ凄い」



サインには私宛に名前も書かれてないし、誰が受け取っても喜ぶだろう。



「どうやって貰ってきたの?」

「普通に。『サインちょおだーーーい!!』って言って」

「え…キャラ違くない?」




何となく苦笑しながら、彼女は切れ端をファイルの中に大事そうに保存した。

そして何かに気付いた様で私に問いかける。



「でもいいの?なまえも芸能人とか好きでしょ」


ミーハーだもんね、と付け足す。否定はしないけど。




「私はちゃんと色紙に書かれたやつがいい」

「うわーミーハーの鏡だねー」



笑いながらそう言われてしまった。女子がミーハーで何が悪い。見てる分には格好良いにこしたことはない。

ついでに、先程撮った2ショットは大事に保存した。それはそれ、これはこれ、である。




「じゃあ何でサイン貰ってきたの。ノートの切れ端なんかに」

「成り行きで」

「図々しいねー」


お互い笑い合いながら、自分の席へ戻っていった。

隣の席に黒子がいない。
陰の薄さで見えないのかなと思い、もう一度目を凝らして見てみたがやっぱりいない。

トイレにでも行ったのかな、と思って気にしない事にした。


なんとなく後ろを見てみると、珍しく紫原敦は寝てないようだった。外をぼーっと眺めている。


何見てるんだろうと思って私も外を見てみたが、何も無い。
視線を戻すと今度は紫原敦がこちらを見ていた。



「ねー」

「なんだよ」

「お菓子もってない?」

「昼休みまで我慢しな」



一学期はずっと、紫原敦と売店に行っていた。発言した後にちょっと後悔する。これでは二学期も一緒に売店行こうねって誘ってるみたいだ。

なんとなく恥ずかしくなったが、紫原敦は特に気に留めてないようだった。



「ちょっとお前、背が更に伸びてない?」


全中で見ていたとはいえ、練習場所はバラバラだったため、こうやって奴と対面するのは夏休みを挟んだ一ヶ月ぶりだ。

よく見ると背が伸びている。

「あんたが縮んだんじゃないの」

「成長期で縮むとか絶望的だろ。紫原敦が伸びたんだよ」



これ以上伸びるのか。伸び過ぎじゃないの。



「今何cmぐらいなの」

「さー、185くらいじゃないのー?」

「お前本当に中1かよ」


けれど、これから更に20cm以上伸びると思うと、彼は本当に日本人なのかと疑ってしまう。

実際、顔立ちは掘りが深めで少し西洋人が入っている気がする。


「日本人なの?」

「俺英語話せないしー」


そんな事聞いてない。紫原敦と離そうとしても、会話はなかなか成り立たない。

諦めて携帯を見る。お気に入り登録していたマジバのサイトに移動した。


「あ」

「なんだよ」



ぐぐっと顔をこちらに向け、私の携帯を覗き込む。


「おい人の携帯見るな」

「チョコスナック100円だー」


私の話を聞いていないようだ。携帯を見てみると、マジバで売られている180円のチョコスナックが確かに100円に値下げされていた。

でもこれは、携帯を見せないと行けないクーポンだ。


「なに、好きなの?」

「うん」

「サイトに登録したら100円になるよ」

「えー、登録すんの?面倒くさ」


彼は既に萎えたように顔を引っ込めた。まあ、そうだろうなと予想は出来ていたけど。


「ねー買ってきてよ」

「ふざけんな」


私も図々しい性格だが、こいつには勝てないだろうなと思う。


「あれは出来立てのアツアツが一番美味しいでしょ」

「はー?少し冷えたくらいが一番じゃん」

「ばっか、熱いうちに付属のホワイトシロップかけてさぁ」

「それはないー。絶対美味しくない。冷えていた方が良い」


どうでも良い話だが、お互い一歩も引かない状況だった。
絶対に熱いうちに食べる方が美味しい。アレこそがマジバチョコスナックの醍醐味なのに。

口答では勝負がつかないようだった。


「なんなの、猫舌なの?だからあのアツアツのチョコスナック食べた事無いの?」

「あんたもさー、食い意地はって早く食べちゃってんじゃないの。少し冷ませば良いのにー」

「お前に食い意地はってるとか言われたくないわ」


お互いに睨み合う。こいつ、負けず嫌いだな。


「じゃあさー、こうすればいいじゃん」

「何」

「ちょうど100円なんだしさー、2つ買って食べ比べ」

「いいよ、絶対に熱い方が美味しいからね。負けた方が200円払えよ」


そんな会話が続き、何故か放課後の部活後にマジバに行く事になった。

成り行きとはいえ、どうしてこうなった。



今日は始業式で学校も早く終わったため、部活は昼から。夕方の早めに部活は終了した。
全中は終わったから少し身体慣らし程度だった。

なので疲労もそこまで溜まっていない。
黒子は今日は用事があるとかで先に帰ってしまった。

そういえば、今日はどこで待ち合わせするのだろう。マジバ集合だろうか。

携帯のアドレスを知らないのでちょっと困ってしまう。とりあえず校門の方へ行ってみた。


「あ…いた」

背が高すぎるのでよく目立つ。意外にも校門で待っていたようだ。


「おっす、行くぞ。200円は用意したか」

「あんたがねー」


軽口を叩き合いながらマジバに向かう。辺りはまだ明るかった。


「ねえ、紫原敦って帰り道こっちなの」

「途中から逸れるけどー。そんな遠くない」

「へー」


なんだか皆帰りはこちらに向かうようだ。

今度、黒子と青峰あたりで一緒にマジバに行きたいな、と思った。

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