キンセンカの涙 | ナノ


13:第二のフラグ

残念ながら、私と紫原敦は同じクラスなため、同じテント。

つまり向かう先は一緒だ。必然的に同じ帰り道。


「…はぁ」

「ねーいつまで溜め息ついてんの。ごめんって言ってんじゃん」

「本音は?」

「うざいなーって思ってるー」

「…っち」


軽く舌打ちする。本当に嫌な奴だな。

別に一緒にテントに帰ろうなんて思ってないのに、私はイライラして早足になってしまうし、彼は元々足のリーチが長いので、お互いちょうど良い歩幅。

先ほどのことあってか、チラチラと視線を感じるが、そこはもういい。
むしろ、あんな恐ろしい体験を私の許可とらず行った事が腹立たしいのだ。

ちなみに、ジェットコースターは苦手だ。
軽く酔ったし…なんて思いながら前を見ると…


「よー、紫原!」

「あ、峰ちんだ」

「ひいっ!!」


しまった、いきなりの登場に思わず悲鳴を上げてしまった。


「おい、なんて声出してんだよ」

「峰ちんの顔が怖いからじゃないのー?」


うっせえ、と突然現れた青い髪の少年は言う。
…紫原敦とまではいかないが、背が高い。肌が黒い事も重なって見た目の恐さが凄い。


「つーかお前、さっきの!くっそ笑えたわ!!何してんだよお前ー!!」


そう笑いながら、青い人は紫原敦の背中を叩く。
あれ…意外と明るいな。眉間に皺が寄っていない…。

そうか、中学時代は明るかったんだっけ。
後で『俺に勝てるのは俺だけだ』なんて、いろんな意味で凄い事言っていた気がする、たぶん。

そんな事を考えながら、ちらちら見ると青い人と目が合った。
反射的に、軽く頭を下げる。


「…え、何だよ。まさか彼女?」


そう驚いて紫原敦に問う。
なんて素敵な勘違いをしていらっしゃるのだろう。


「違うー。彼女とかいらないし。峰ちんじゃないんだから」

「なに純情ぶってんだよ、お前それでも男かー?」


そのとき、再び青い人と目が合って、ちらりと視線が下に行くのを感じる。
…胸を確認したな。確か、グラビアが好きだったよな…。

悪かったな胸が無くて。


「ていうかさー、付き合うとしても、こんな女子嫌だし」

「こっちも遠慮したいところだけどね」

「俺もうちょっと女子らしくてふわふわした子がいいー」

「私は身長が人並み程度で、お菓子をそこまで食べず、授業中に寝なくて髪が紫色じゃない人がいいな」

「…気が合うねー」

「…そうだねー」


お互いににらみ合ってると端から「わはっ」と吹き出す声が。


「お前、バスケ以外で何ムキになってんだよ、キャラ違うだろ」

「うるさいなー、ムキになってないし」


一気に紫原敦は不機嫌モードになる。彼は青い人を通り越してどこかへ去っていった。
…あっちはテントの方向じゃないぞ。


「なにキレてんだよ」

「図星だからでしょう」


青い人がこちらを見る。何となくお互い笑ってしまった。


「つーか、ほんとに紫原の彼女じゃねーの?」

「くっつけたいんですか」

「冗談言うなよ、【彼女持ち】をあんな奴に先に超されるとか」


想像できねー、と笑いながら言う。
…なんだか、前世で知っていた人物像とだいぶ違うような…


「おまえ、何組?」

「…2組ですけど」

「紫原と一緒のクラス?」

「一応」


だからか、と彼は納得した。
…なんでこんなに会話してるんだろう。
『では、そろそろ』と言い出せるタイミングが掴めない…

「あ、大ちゃん見つけた!…あれ、なまえちゃん?」

なんとも素敵なタイミングで桃色の少女が…

「何だよさつき。知り合いか」

「なまえちゃんもマネージャーだよー。バスケ部の!知らないの?」

「あ?それなら早くそう言えばいいのによ」


桃井さん、あなた…なんて事をしちゃってくれたんですか。
そこまで知られたら改めて自己紹介しなくちゃいけない。


「…どうも、3軍マネージャーのみょうじです」

「あー、青峰大輝。さつきとは幼なじみ」


知ってます。


「ごめんねなまえちゃん、大ちゃんは1軍だからあまり同級生の人知らないの」

「知ってる知ってる、もうスタメンなんでしょ」

「え…あ、うん。よく分かったね!」


え、ちょっと、なんで一瞬空気悪くなったの。
別に秘密にしているわけでもないでしょ。


「大ちゃんね、昨日からスタメン入りなの!1年生では初めてだよ」

「おい、さつき」


初めて!?
あれ、赤司君とか紫原敦はまだスタメンじゃないのか…。
しかも昨日からって。

そんな事3軍マネの私が知ってたら気持ち悪いよな…。


「む、紫原敦に聞いたの!」

「むっくんに!?」


なんでそんな驚くんだよ。なんだかどんどん墓穴を掘っているみたいだ。
時系列さっぱりなんだから勘弁してよ。
早くこの場から逃れたい…そう思った瞬間。


【ただいまからお昼の時間です】

放送が響き渡る。時計を見れば、もう12時だ。


「あ、そうそう!大ちゃん、皆でお弁当食べよって話してたの」

…そうか、この二人は家族ぐるみで仲が良いのか。

「なまえちゃんの家族も来てる?」

「あ、いや…うちは…」

義両親は来てない。むしろ、体育祭がある事自体伝えてない。
言っても来ないだろうし。


「いろいろあって、今日来れなかったんだよね」


止めておけばいいものを、特に意図もなくそう答えれば…


「あ!じゃあ一緒に食べようよ!!」

「!!!?」

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