呼び鈴の音に、火神は読みかけの雑誌を置いて、玄関へと向かった。
「ハイ」
「…こんにちは」
ドアを開けてやれば、私服姿の黄瀬がひょっこり顔を出す。
「青峰は?」
「寝坊したから遅刻するって」
「あいつらしいな。…どーぞ」
家の中に招き入れてやれば、黄瀬ははにかみながら「お邪魔します」と行儀よく挨拶する。その全身像に、火神は釘付けになった。
「…火神っち?」
トップスの白い半袖シャツは、ただ上品で可愛らしい。だがその下のネイビー色のフレアスカートは、太ももを隠しているよりも、出している部分の比率の方が高いミニ丈だった。
ついつい白く眩しい足を凝視してしまえば、黄瀬は頬を赤らめてスカートを押さえた。
「…青峰っちが、こういう服ばっか着せたがるんスよ」
青峰は、基本的にいけすかない奴である。だが今この時だけは、グッジョブと称賛せずにはいられなかった。
「青峰の気持ち、分かるわ」
火神は黄瀬を引き寄せると、晒された太ももに手を這わした。
「…すげー、似合ってる」
しっとりと吸い付くような肌を感じながら耳元で囁けば、黄瀬は小さく声を漏らして火神に体を預けた。
「…ベッド、行くか?」
耳まで真っ赤にした黄瀬は、火神の問いにこくりと頷いた。


シーツの真ん中に座った黄瀬は、潤んだ瞳で頼り無げに火神を見上げる。火神は薄く笑うと華奢な体をそっと、ベッドに倒した。
このおかしな関係にも随分順応してしまったと実感する。
青峰も交えて三人で行為に及んだ回数は、そろそろ片手では足りなくなる。それ以外にも今のように、黄瀬と二人きりで触り合うなんてことも度々あった。
青峰の監視はなくとも、奴が決めた制約は、いつだって自分たちを縛った。
―――『唇へのキスは禁止』。
火神は、黄瀬の額に唇を落とした。
律儀に従うなんてどうかしているとも思う。けれど一線を守り続けているのは、きっと今の関係を気に入っているからなのだろう。自分の背中に手を回すこの美しい人を、失いたくはないのだ。
「ぁ…」
頬や首に痕を残さないよう気をつけながら口付けて、胸に手を遣る。本来あるはずのない膨らみを、手のひら全部で味わう。
じんわりと汗ばみ始めた肌が綺麗で、もっと見たくなった。
「服、脱がして良いか?」
「…ん」
許可を得て、一つ一つボタンを外していく。形の良い鎖骨が見えて、レースがあしらわれた可愛らしいピンク色の下着が現れる。
火神はしっとりと濡れた谷間に親指を入れて、他の指で胸を包んだ。
「っん…」
さっきよりもダイレクトに感触が伝わる。指が埋もれる感じが気持ち良くて夢中で揉んでいると、黄瀬が悩ましげに身を捩らせた。
ずれて落ちかけているストラップを、指で引っかけて完全に下ろす。生まれた隙間に手を入れて、直に黄瀬の胸に触れた。
「あ…っ、あ…」
黄瀬が首を振れば、ぱさりと金糸がシーツに散る。もっと乱してやりたくなって、火神は役に立たない下着を引きずり下ろした。
円くて真っ白な胸と、薄桃色の乳首が眼前に晒される。火神はごくりと、喉を鳴らした。
「ゃ、ああ…っ!」
一度桃色の縁を舐めてから口に含めば、黄瀬は声をあげて背を反らした。舌でねっとりと濡らして、ツンと立ち上がったそれを唇で挟む。もう片方は指で撫でてやれば、ビクビクと体が跳ねた。
「ぁ、あっ、ん…っあ!」
シーツの上を黄瀬の足が滑る。もどかしげに内腿を擦り合わせるのに気付いて、火神はめくれ上がったスカートの中に手を入れた。
「やっ…」
ショーツの上からでも分かるくらいに、黄瀬のそこは濡れていた。火神は口角を上げると、ぷくりと主張する陰核を指で押し潰した。
「ひゃ…ああっ!」
どろどろになっているであろう割れ目をなぞって、突起を転がすように弄くる。体を伸ばして乳首も吸い上げれば、黄瀬の声にはより切迫感が増した。
「あ、やぁっ…は…っ!」
玉になった涙が頬を伝っていく。苦し気に寄せられた眉を見て、火神は攻めるのを止めた。
「黄瀬…大丈夫か?」
「…え…?」
無理をさせているのではないかと、急に不安になった。こんな華奢な体で、並を優に越える体格の男の相手をしているのだ。それも、時には二人同時に。負担がない、はずはなかった。
「…へいき」
けれど黄瀬は息を乱しながらも、艶然と微笑んだ。
「もっと…気持ち良く、して?」
カッと全身の血が熱くたぎる。ガチガチに勃った性器はジーンズを押し上げて痛いくらいで、火神はベルトを外した。
「火神っち…?」
最後までするのかと、黄瀬が言外に問う。
―――『挿入は禁止』。
生殺しのような制約が、この先は通行止めなのだと薄ら笑う。
火神はボクサーパンツの上からそれを撫でると、黄瀬の足を開かせて、互いの最も敏感な部分を擦り合わせた。
「ん、あ…!」
先で陰核を刺激するように腰を動かす。クロッチ部分を押したり離したりする度にくちゅりと卑猥な音を立てるから、まるで本当にセックスしているような気分になる。
「は…あっ、あ…!」
荒い息は、もうどちらのものとも分からなかった。
気持ち良い。けれど足りない。薄い布越しのもどかしい触れ合いでは歯痒くて、苦しかった。
「ん、ゃ、あ、あっ…!」
甘い声を溢す濡れた唇を見つめる。制約なんてどうでも良いから、邪魔なものは取り去って、ぐちゃぐちゃに中を犯してやりたかった。突き上げながらあの唇を塞ぐのは、どんなに甘美なことだろうか。
「黄瀬…!」
呼び掛けに黄瀬は目を開く。鏡のように、その琥珀は飢えた色をしていた。なら、我慢をする必要など無い。
一線を越えようと火神が片足を上げかけたとき、割って入る声がした。
「おーおー、激しいこった」
寝室のドア枠に肘を付いて不敵に笑うのは、火神たちの間に契約を強いた張本人だった。
「…みね、ち…っ」
苦しい息の合間に、黄瀬は恋人を呼ぶ。ベッドの傍らまで来た青峰は、黄瀬の頭に手をやると唇を合わせた。
「ん…、ぅ…っ」
ぎゅっと青峰にすがって、黄瀬は夢中でキスに応える。
そんな二人にツキリと胸が痛んだのは、勘違いだと思いたかった。


2014/9/26

戻る