「っ、なに…」 ドアを閉めるなり飛びかかってきた黄瀬に、文句ごと唇を封じられる。隙間を作らないよう強く合わされた唇は、性急に火神の口内の熱を求める。 「…待て…って……黄瀬!」 力尽くで押し返すも、黄瀬は肩を掴んだ手を取って、まるで愛撫のように自らの体をなぞってみせた。 「…しよ?」 その目に情欲はない。でも、黄瀬は必死だった。もう後がないように、必死に火神に手を伸ばした。 「お願い…」 いきなりどうしたというのか。問うことはできた、けれど。 火神は、その体を抱き締めることを選んだ。 壊れ物のようにそっと、ベッドに倒される。落ちてくる羽のように淡いキスを、無理矢理に抉じ開けて深いものにする。火神は戸惑いながらも、なにも言わずに合わせてくれた。 甘えているのは分かっている。なにも訊かないでいてくれる火神の優しさにつけ込んでいる。それでも、今は愛しい熱だけを感じていたかった。 「…ん…っ」 火神は焦れったいほどにゆっくりと服の上から体を撫でるから、黄瀬は自らシャツのボタンを解いて、火神の首を引き寄せた。 露になった鎖骨に唇が落ちる。脇に触れた手は這い上がり、胸の先を捉えた。 「ん、ぁ…あっ…!」 指の腹で捏ね回されて立ち上がったそこに、ぬるりと舌が絡み付く。吸い上げられれば、びくりと体が跳ねた。 ずっと自分を蝕んでいた焦燥は、触れられる度に欲情へと変わる。体の奥が、男を求めて疼く。 下も脱ぎ捨てれば、すぐに愛撫も下へと向かう。屹立に伸びた手を止めて、最奥へと導いた。 肉体的なものよりも、精神的に満たされたい。今すぐ一つに繋がりたかった。 「っあ…」 意図は汲んでもらえ、ローションに濡れた指が中に入り込む。ゆるゆると中を馴らして更にもう一本、負荷が増やされる。 「ぁ、ん…!」 どうしようもなく苦しい息を吐く口に、労るようなキスがある。薄く口を開けば、隙間から舌が滑り込む。 「んぅ…ん、は…っ」 きつく目を閉じれば、混ざり合う水音だけが耳を刺す。頭が真っ白になるまで中を溶かされて、ようやく指が抜かれた。 「…入れるぞ」 キスを解いた口が言うのに、ぼんやりと頷く。足を開かれ、物欲しげにひくつくそこに、固くいきり立ったものが押し当てられた。 「っや、あ、あぁー…!」 ゆっくりと貫かれる。痛い、苦しい。だけどそれ以上に、愛されているという喜びが体を満たす。 「ん……あ、あ、やっ…!」 馴染むのを待ってから、少しずつ律動が開始される。思わず逞しい体にしがみつけば、優しく頭を撫でられた。滲む視界に柔らかい笑みが映る。 「…好きだ」 濡れた目元にキスが落ちる。 「黄瀬…」 絶えることなく全身に、愛が落ちる。 動きに翻弄されながらも、黄瀬は愛を返そうとした。 「あっ…俺、も……」 好きだと、名前を呼ぼうとして、愕然とした。誰よりも大切な恋人を前にして。 ―――名前が、出てこなかった。 「あ……」 肩に回されていた黄瀬の腕が、力なくベッドに落ちる。 「…黄瀬?」 見開かれたままの琥珀から一筋涙が落ちて、それが合図かのように黄瀬の体は小刻みに震えた。 「…あ、や…ああぁ―――っ!」 両手で顔を覆う彼の喉を震わせるのは悲痛な慟哭で。 火神はただ、その体を抱き締めた。 2013/11/05 戻る |