薄情だと笑ってくれれば良い。 新設校でバスケと向き合い、火神と出会って、頼れるチームメイトに恵まれて。 キセキの皆ともちゃんと話せるようになって、ようやく一人足りないことに気が付いた。 言い訳をさせてもらえるのならば、そんな可能性を考えもしなかった。 彼はバスケが好きだった。記憶の中の彼はいつだって、楽しそうにボールを追いかけている。 彼がバスケから離れるはずがない。思い込みは確認を遅らせた。 気付いたときにはもう、電話もメールも繋がらなくなっていて。 黒子に残された糸は一本だけだった。 「黄瀬くんと連絡が取れません」 いきなり本題をぶつけても、青峰は僅かに視線を下げただけだった。 呼び出しに応じたときから内容を想定していたのだろう。 その反応だけで、自分の予想を確信に変えるのは容易かった。 青峰は、他のキセキの皆は、自分が知らないことを知っている。 そして何故か、それを隠している。 「彼はどこにいるんですか?」 「…連絡が取れないなら、それが答えだ。あいつには、会うな」 「嫌です」 「テツ」 青峰の声に、咎めるような強い響きはなかった。 「…頼むから、あいつのことは諦めろ」 すがるような悲痛な目なんて、彼らしくない。 黒子は震え出しそうな手を固く握りしめた。 引く気は、なかった。 「…嫌です」 彼と話をするまで、絶対に屈しない。 意志を伝えると、青峰は深く深くため息を吐いた。渋々といった体で携帯を取り出して、電話をかける。 黄瀬。青峰の口が動くのに、鼓動が跳ねた。電話の向こうに彼がいる。 青峰は短い通話を終えると駅名を告げた。 「駅前で黄瀬が待ってる」 「…!ありがとうございます」 踵を返しかけた黒子の腕が不意に引かれる。 青峰は黒子の顔を自分の胸元に閉じ込めて、言った。 「…自分を責めるな」 本当に、今日の青峰は彼らしくない。 だけどそんな青峰を笑い飛ばすことは、どうしてもできなかった。 青峰が告げたのは隣の県の駅名だった。 逸る気持ちを抑えながら、最短距離で彼の元に向かう。 知らない駅に降り立つと共に、すぐに探し焦がれていた人を見つけた。 「黄瀬くん…」 駅前の枯れた噴水の縁に腰掛ける彼を目にした途端、その場に崩れ落ちそうなくらい安堵した。 「黒子っち」 久しぶり、と黄瀬が笑う。 泣きそうになった。 青峰が散々脅すからいけないのだ。 彼はこうして自分の目の前で笑ってくれているではないか。 黒子は黄瀬の前にしゃがみ込むとその手を取った。 体温を、存在を、確認する。 「…一年ぶりくらい、かな。遠くまでごめんね」 最後に話した全中の記憶と、今の彼を比べる。 少し痩せた、それくらいの違いしか見つけられない。 確認したいことはたくさんあった。 「黄瀬くん、今なにやってるんですか?」 「実家でのんびりしてるよ」 「高校は?」 「行ってない」 「バスケ、は?」 「………」 黄瀬は小さな笑みを浮かべたまま、首を振った。 なぜ。 焦燥のような憤りのような感情が、黒子の中で騒いでいた。 「どうしてですか?あんなにバスケが好きだったじゃないですか」 「…黒子っち」 「今からでも遅くないです。どこかに編入してまた一緒に…!」 「黒子っち」 言い募る黒子をやんわりと止める。 黄瀬はふっと、微笑んだ。 「俺、走れないんだ」 次→ |