黄瀬にメールを送る。
内容は短く場所と待ってろ、とだけ。
時間は書かない。
どうせ、守る気もない。


確認作業


青峰が待ち合わせ場所に着いたのは昼過ぎだった。
黄瀬は既にそこにいた。いつから待っているのかは分からない。
声をかけるどころか視界に入ることもしないで、青峰は黄瀬の死角に身を潜めた。
休日の町は人が溢れている。
ただ立っているだけで黄瀬は人目を引いた。黄瀬のことを知っている人も知らない人も、男も女も関係なく、次々とたくさんの人が彼に話しかける。
黄瀬はその一つ一つに、丁寧に応える。笑いかけて、言葉を交わして、求められれば手を差し出して。
何人か、黄瀬の腕を引いた人がいた。その時黄瀬は口元にだけ笑みを残し、首を振った。
誰に何を言われようと、黄瀬は決してその場から動こうとはしなかった。
冬の空気は冷たい。動かずにいるのなら、それは尚更。
空を仰いで黄瀬が吐いた息は白く、綺麗だった。


濡れたように地面が赤い。
暮れ始めた空を見て、ようやく青峰の足は動いた。
メールで示した待ち合わせ場所に立つ。
「黄瀬」
しゃがみこんだ膝の上で伸ばされていた手が反応する。
腕に伏せられていた顔が上がる。
「…青峰っち…」
黄瀬が待ち人を呼ぶ。
色濃い疲労で掠れた声で、顔で。
それでも来てくれて嬉しいと微笑む。
これ以上の愛なんて、あるはずがない。


fin 2012/11/18

歪んでます。私が。

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