1on1は同じくらいの体格、実力の相手とやる方が効果があるという。キセキの世代と同等の力をつけつつある火神の相手がつとまる人間は、今の誠凛にはいなかった。
「黄瀬くんはどうですか?」
欲求不満で燻る火神に、黒子は元チームメイトの名前を持ち出した。
「体格も実力も手頃さも、丁度良いんじゃないでしょうか」
「てごろ…?」
羅列された最後の言葉に引っかかる火神をよそに、黒子はさっそく携帯を取り出す。
「…まぁ、余計なものがついてくるかもしれませんが」
「へ?」
意味深な台詞を残し、黒子は携帯を耳に当てた。


「火神っちー!」
黒子の電話一本で呼び出された黄瀬は、ストリートコートに立つ火神の元へ、ぱたぱたと駆け寄った。
「お誘いありがとー」
じゃれつく黄瀬は、良いのだけれど。火神には解せなかった。どうして。
「…青峰がいるんだよ」
「あ?いちゃワリーかよ」
端から喧嘩腰だ。
そういえば、余計なものがついてくるかもしれないと言っていた黒子を思い出す。
重い。添加物が重すぎて、胸焼けを起こしそうだ。
「今日は元々青峰っちとバスケする約束をしてたんスよ。でも火神っちからも連絡もらったから、せっかくなら三人でと思って」
黄瀬は何の悪気もない笑顔を向ける。
余計なことをしやがって、と思わないこともないが、楽しげな様を見てしまえば何も言えなくなる。それは、青峰も同じらしい。
「おら、とっとと始めんぞ」
言いながら脱ぐ青峰に倣って、黄瀬も上着を脱ぐ。そして。
悪夢のような、スパルタ1on1が幕を開けた。


指一本動かす気力も無い。
コートの端に転がる火神の横にもう一つ、生きる屍が増えた。
「なんだよ、もう終わりか?」
一人地に立つ青峰は、汗はかいているけれどまだまだ余裕そうだ。文句なしの化け物だ。
「…も、無理っス…。お腹すいた…」
さっきまで「もっかい、もっかい」言っていた黄瀬も、空腹の前に屈服したらしい。無理もない。辺りはすっかり暗くなり、どこからか夕飯の良い香りが漂ってきている。
「もうこんな時間か。なんか食って帰ろうぜ」
「じゃあうち来るか」
火神は提案と共に、鉛のような体を起こした。
「ここからなら割と近いし、付き合ってくれた礼に、なんか作るぜ」
「行く!」
まず、黄瀬が目を輝かせる。
「ま、いいんじゃね」
次いで、青峰も賛同する。
「火神っちの手料理!」
「タダ飯!」
しかし二人の目的は、微妙に異なっているようだった。


性格的なものなのか、黄瀬は仲を取り持つことが抜群に上手かった。
顔を合わせれば衝突が常の火神と青峰だが、間に黄瀬が入ることで尖った空気は丸く穏やかなものになり、思いがけず楽しい時間を過ごすことができた。
夕飯が終わっても話題は尽きることがなく、バスケについて熱く語り合う火神と青峰に、黄瀬は頬を緩ませた。
「…なんだよ」
「んー?二人とも本当は仲良しなのに、何でいつもはあんなにぶつかり合うのかなって」
「仲良くねぇよ!」
突っ込みは綺麗に重なり、二人は嫌そうに顔を見合わせる。
「ほら、そっくり」
声をあげて、黄瀬は笑った。


2013/10/15

戻る